lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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火山と地震の国に暮らす

火山と地震の国に暮らす

火山と地震の国に暮らす

複数の雑誌に掲載された記事をまとめて書籍化されたものなので,タイトル通りの内容もあり,そうでなく科学コミュニケーションの話もあり,という感じでした。
例えば,へ〜と思ったのは,大学で教養の授業をもたれていて,その授業のために新書を書く(新書を書くことで伝えたい内容や伝え方が洗練される→授業準備も兼ねる?)*1というくだりです。

p.133 わたしは,理系の教養科目はエデュテインメントに徹したらよいのではないか,と考えている。
平たくいえば「おもしろくてタメになる」という意味である。教養科目は専門基礎科目と差別化を図って,独自の教育効果を出すべきだと思う。
(従来の「講義ノート」に代わってパワーポイントが多用されている現状について)
p.134 パワーポイントは,学会発表など専門家向けのプレゼンテーションには有効だが,はじめて学ぶ学生には情報量が多すぎる,などの弊害が出る。
もともとパワーポイントは”説得”の道具であり,学生が自身で”納得”するためには,思考の流れを繰り返し体験できる書籍がより適している。むしろ昔風の文章と図で記述した教科書に沿って教えるほうが,初学者の頭には入りやすいのである。
(中略)
p.134 わざわざ教科書を自分でつくるのには理由がある。一冊の本を苦労してつくる過程で,はじめて学ぶ読者(新入生)にもわかりやすい説明の論理が磨かれる。また,専門家には重要でも素人には冗長にしか映らない記述が省かれる。とくに,自分で執筆してみると,理解の不十分な箇所が立ちどころに露見する。これは,論文を書くと研究の問題点が浮かび上がってくるのと同じ構造である。
教養科目の教科書は,専門基礎科目としてはコンテンツが足りないが,エデュテインメントは満たしている,というものがふさわしい。量が多ければよいのでは決してない。初学者が興味をもちそうな事項を厳選して,全体を概観できる構成にする。加えて,研究上のおもしろいエピソードなどを挿入し,読み物として通読できる教科書に仕上げる。
余裕があれば,最先端の研究まで盛りこむのもよい。
p135 なお,最後までストーリーを興味深く追いかけられることを,最優先の課題とする。換言すれば,事実関係のきちんとした裏づけを細々と書くのは,逆効果なのである。重要な結果とそれを導いたおもしろいプロセスに限って書いてあればよしとする。しばしば専門家が陥りやすい点であるが,教科書はすべてを網羅しなければならない,という考えを捨てることが肝要である。

あと,このような「教科書」を書く際には,例えば高校の理科四科目を必ず履修しているとは限らないので,中学修了程度をまず想定して,ということも書かれています。

*1:労力に見合うかどうかは別として印税も入るしね〜→これは書いておられませんでしたが。