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近江商人

近江商人―現代を生き抜くビジネスの指針 (中公新書)

近江商人―現代を生き抜くビジネスの指針 (中公新書)

pp.229-230 もとより苦楽相半ばする人の世において営利活動に従事すれば,私欲を刺激するさまざまな誘惑をともなうことは避けがたい。そうであればこそ,持下り行商に始まる近江商人のつかみ取った「企業は公なり」という遺言の精神は,地球環境の有限性が語られるようになった今日では,土地・水・空気といった自然環境を当然の前提として活動する企業組織にとって,なおいっそうかみしめるべき普遍性をもった至言である。

近江商人」という言葉は何となく知っていましたが,そのイメージは利にさといというか「近江泥棒」という言葉があるごとく,あまりいいものではありませんでした。
しかし,CSRとか企業倫理などの本を読むうち「三方よし」という言葉を知り,近江商人について興味が湧いたので読んでみました。
本書では「近江商人」の卓越した合理性とその合理性を極めた結果としての先進性,そして社会の目を意識した独特の倫理感について,中公新書らしく手堅く紹介されています。
近江商人についての概要は,本書も引用されているWikipediaの記事が簡潔にまとまっています。
wikipedia:近江商人
上記Wikipedia記事にはありませんが,本書で近江商人の経営システムの特色として複数挙げられていたうち「在所登り制度」の結構なシビアさに驚きました。
「在所登り」とは,丁稚として採用された後,数年経ってはじめて認められる帰省休暇なのですが,これは同時に勤務評定の時期(きっかけ)でもあったというのです。こいつ使えねー*1と判断されたらそのまま実家にとどめて解雇,というシステムだったとか・・・
ある近江商人の記録によると,「家出,不正行為,能力欠如など何らかの理由で解雇されたり,病気や死亡によって挫折した奉公人の割合は,実に56%」であったというのです。
近江商人は地元(=近江)からのコネで奉公人を採用することが特色のひとつらしかったですが,決して情実人事ではなく,能力主義の人材選抜の仕組みが働いていたことが分かります。

*1:「間に合う」「間に合わない」(p.51)という言葉があったそうで,その意味はつまり役立つ・役立たないということだったそうです。「間に合う」という表現には機敏であることが重要という認識がありそうなことが本書を読むと感じられます。