lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

脳科学からみる子どもの心の育ち: 認知発達のルーツをさぐる(知識をアップデートするのによかった。)

バリバリ現役研究者による脳科学からみた認知発達の解説書です。
脳科学+子ども(発達)の本となると、思わず構えてしまう(例えば)のですが、図書館の新着図書の棚で見かけ、読んでみました。
すごくいいです。自分が昔、発達検査界隈で仕事をしていた頃に付け焼刃した知識をアップデートできるような内容でした。これはSTさんなど読むと面白いのではないでしょうか。でもちょっと難しいかもです。「ですます調」で書かれていて(=一般向け)、「要するに」とか「つまり」など、展開されている内容を要所要所でリピートしてまとめてくれる文章の書き方をしてくださっていて懇切丁寧なのですが、ある程度のレディネスがないと、分からないところが多いのではないかな〜と感じました。私も、自分の知識が乏しい箇所に至ると、んんん?うぬぬ?と行きつ戻りつして読みました。
でもよく知られている現象と最新の脳科学とをつなげて解説しているところなどは、ホント、目からウロコボロボロで興奮しました。
例えば、統合失調症の症状として「させられ体験」なるものがありますが、精神医学のテキストなど見ると、ただそういうものがありますよ、とのみ書かれているので「?」でしたが・・・

p.94
自分は今、手を動かしている」「手を動かしているのは私だ」という感覚はどこからくるのでしょうか。ある人は「動くところを見ているから」と答えるかもしれません。あるいは、筋肉の自己受容感覚から来る求心性の信号により、動かしている感覚が生じると考えるかもしれません。残念ながら、これらの答えはどれも正確ではありません。先に述べたように、運動指令による予測とそれによって生じる感覚フィードバックの誤差が小さいときに、自ら手を動かしているという感覚が生じるのです。これを「自己主体感」と呼びます。

p.95
自己主体感は以下のようなメカニズムで生じるものだと考えられます。私たちの脳が何か運動指令を出すと、それに従って運動が起こり、感覚フィードバックが返ってきます。私たちの脳内には自らのボディー・イメージやボディ・スキーマ、そして運動モデルが備わっていて、「こういう指令を出せばこのようなフィードバックが返ってくる」と予測することができます。そしてフィードバックが予想通りに返ってきた場合には、予測機構が出力する誤差はゼロとなります。この場合には運動に対する特別な意識や注意は喚起されません。逆に予測と大きく異なるフィードバックフィードバックが返ってくると、その運動は自らが行ったものではないと判断され、自己主体感が失われるのです。例えば統合失調症での「させられ体験」なども、このようなマッチングの齟齬によって引き起こされると考えられます。

ほおおおお〜
つまり、動こうとするときにはその動作に伴うはずの結果予測も発生していて、その予測と実際の動作からのフィードバックが一致するのが普通なんだけど、「させられ体験」では動作に伴う結果予測が返ってこないとか、動作からのフィードバックがうまく通らないとかの不具合が発生しているから、動作と結果予測が一致しない→自分がやった行動じゃない、という感覚になるのかな〜
この他、本書で述べられている最近の脳科学の成果は、非侵襲的な生理活動測定手法の進歩によるものだということもひしひしと実感しました。胎児の脳波測定とか、すごすぎます。
後半の「特別講義」では自閉症に焦点を当てた展開になっていますが、もちろん、これも読みごたえがあります。