lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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大学の誕生〈上〉帝国大学の時代/大学の誕生〈下〉大学への挑戦(現在は過去の結果である。)

大学の誕生〈上〉帝国大学の時代 (中公新書)

大学の誕生〈上〉帝国大学の時代 (中公新書)

大学の誕生〈下〉大学への挑戦 (中公新書)

大学の誕生〈下〉大学への挑戦 (中公新書)

上下二巻に分かれた新書としては異例の形です。
明治19(1886)年3月1日,勅令「帝国大学令」に基づき,わが国初めての大学である帝国大学(現在の東京大学)が創設されましたが,それにつながる前状況から,大正7(1918)年12月6日に「大学令」が成立し帝国大学以外の大学が誕生するまでの流れが,綿密に書かれています。
現在は過去の結果であり,過去を知ると現在なぜこうなっているかの納得ができるということを実感しました。
例えば,東京の都心に(今も)私立大学が集中している背景には,多くの私立大学の前身である専門学校は,当時の人材の不足および財政的な困難から自校に専任教員を置くことがほとんどなく,当時の帝国大学(に所属する人間=教授だけでなく学生も!)に非常勤講師を頼らざるを得ないという状況があったということです。非常勤講師として帝大から来てもらうには,学校が近く(徒歩圏内)にないと無理ってことですね。なるほど〜
本書「あとがき」より:

p.418
書き終えたいま,あらためて痛感させられているのは,明治から大正初期に至る「大学誕生」の時代に形成された,わが国の大学組織と高等教育システムの基本的構造の,強固な持続性である。文中でもしばしば触れた帝国大学の「範型」性は,その組織構造が,大学令によって成立したそれ以外の,私立大学を含む諸大学にも浸透していまに至っている点に,顕著に示されている。さらに言えば,高等教育システム内部に形成された大学・学校間の序列構造は,すべての高等教育機関が新しい大学として制度上の同等化を達成してから半世紀以上たったいまも,大学間の格差構造として継承され,拡大再生産され続けている。

p.419
いま,明治から数えれば第三の大きな改革の渦中にある,わが国の大学と高等教育システムが直面しているさまざまな問題は,たどって行けばその多くのルーツを,本書で取り上げた,明治から大正初年にかけての「大学誕生」の時代に求めることができる。官公私立の多様な高等教育機関が織りなす「大学誕生」の物語は,その意味できわめて強い現代性を持っている。