lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

役に立つ一次式―整数計画法「気まぐれな王女」の50年(最後は「20世紀エンジニア」として〆る。)

「整数計画法」という1次式の応用に関する研究者(著者の体験も織り込み)たちの「物語」です。
数学そのものの記述はほんのちょっとで、「物語」が主なので、こちらも楽しく読めました。
天才秀才ばかりが登場する本書の中でも、あのフォン・ノイマンがちょこっと出てくるところはすごかったです。
(フォン・ノイマンにノックアウトされたダンツィク青年)

p.166
1947年、まだ30を少し過ぎたばかりのダンツィク青年*1は、自ら考案した単体法を引き下げて、プリンストン高等研究所にフォン・ノイマンを訪ねた。

p.166
単体法こそ知らなかったものの、フォン・ノイマンは、話をはじめたばかりのダンツィクに向かって、「要点だけでよい」といったかと思うと、3分後にはチョークを取上げて、線形計画問題の数学的構造について、1時間以上にわたってレクチャーを続けたという。何でも知っているフォン・ノイマン。このときダンツィクは、この巨人に心の底から畏敬の念を覚えたという。「自分のやったことは、すべてフォン・ノイマンには自明のことだった!!」

「このときこの人*2は、数学的に線形計画法と至近距離にある、「ゲーム理論」の研究をしていたのである。」ということですが、話をはじめたばかりでその内容を見通して、しかも自分の説を披露しようと意気込んでやってきた相手に向かい「1時間以上にわたってレクチャー」って、あなた!
さらに・・・
(ダンツィクを救ったフォン・ノイマン)

p.167
このあと暫くしてダンツィクは、ウィスコンシン大学で行われた計量経済学会で招待講演を行った。このとき会場から手が挙がった。質問者は鯨のような大男、統計学ハロルド・ホテリング教授だった。(この人は、私の先生である森口教授の先生である)教授はたった一言、「残念ながら宇宙は線形ではない」と言って椅子に腰を下ろした。

(以上太字はlionus)
エッ
( ゚д゚)ポカーン

p.167
強烈なパンチに動揺したダンツィク青年の替りに手を挙げたのが、フォン・ノイマンである。「座長、座長。もし講演者がOKして下さるのであれば、私が替わりに答えましょう。講演者は「線形」計画法について話をしたのです。講演者は注意深くその前提を説明しました。もしこの条件をみたす問題がみつかれば、それを使えば良いし、そうでなければ使わなければ良いのです」

p.167-168
何という的確なコメントだろうか。この時以来ダンツィク教授は、終生フォン・ノイマンの激励の手紙を、肌身離さず持ち歩くことになったという。

これまたノイマンが言うからいい(効く)のですよ。はあ〜
いやいや笑いました。
大体こんな感じなのですが、最終章「地球の危機と温暖化」の終わりは以下のように〆られていて、ああ「20世紀エンジニア」だなあ〜としみじみしました。

p.187
「最適化の時代」は企業や組織の活動の効率化に貢献する。マクロ的に見れば、これは希少な資源の節約につながる。最適化によって資源を30%節約することが出来れば、「地球化破滅」の到来を10年遅らせることが出来るだろう。人類社会の危機を乗り切るために、数理計画法をはじめとする最適化技術が極めて大きな役割を担っているのである。

p.187
「役に立つ数学」(OR/数理工学)の世界が、過度の知的財産権保護戦略に毒されることなく、これまでどおり順調な発展を遂げることを願いたいものである。

*1:1947年に単体法を提案し、線形計画法創始者となる。以後半世紀にわたって線形計画法の発展に尽くし、数理計画法の父と呼ばれた(以上、本書の「主な登場人物」から引用)。

*2:フォン・ノイマン