金融工学20年 20世紀エンジニアの冒険(時代の波にのった「20世紀エンジニア」。)
- 作者: 今野浩
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2005/07/08
- メディア: 単行本
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ファイナンスにOR分野から殴り込みをかけた「20世紀エンジニアの冒険」として楽しく読みました。
本書にも「天才少年」として白川浩助教授が登場しています。
あちこち面白かったのですが、バブル経済たけなわの頃、株取引について週刊誌に1年間連載したエピソードについての記述が、「あるあるあるある」という感じでした。一言で言えば、「週刊誌の読者=ふつうの人には標準偏差は理解してもらえない」ということです。
p.25
しかし、ポートフォリオ理論そのものを、一般読者相手に説明しようとするのは、もともと無理な話だったのである。なぜなら、『週刊新潮』の読者の多くは熟年層に属する人たちだから、数学は忘却の彼方にある。また若い読者層も、そのほとんどは数学大嫌いときている。彼らを相手に使える数理的道具の限界が、「平均値と一次式」、そしてせいぜい折線グラフまでであることを知るまでに、たいして時間はかからなかった。
(上の太字はlionusによる;禿げ上がるほど同感。)
p.25
連載開始数回で、エリオットやグランビルのチャート分析を紹介した後、いよいよポートフォリオ理論に議論を進めようとして、平均・分散モデルを紹介したあたりから、文系出身の担当者の対応がおかしくなりはじめた。平均は分かるが、標準偏差の計算法が良くのみこめないという。
p.25-26
受験戦争がピークに達していた当時、「偏差値」という言葉が各新聞上を飛びかっていたから、誰でも標準偏差くらいは分かってもらえると思ったのだが、そうではなかった。標準偏差が分からないとなれば、正規分布を説明することは絶望的に難しい。
うん。標準偏差を説明するため類似物の「偏差値」を出すとさらに混乱する(あるいは誤解される)印象を受けたので、それはやめました*1。
p.26
そこで私は、当初の方針を大転換して、ポートフォリオ理論のエッセンスを、個別銘柄の「架空」取引を通じて説明することにした。たとえば、CAPM理論をソニー株の売買に絡めて説明したり、東京電力株の売りにあたってフォン・ノイマンの効用理論を説明するといった具合である。
数式(計算)は一切出さずに、ストーリー仕立てで理論のエッセンスというか”雰囲気”を伝える感じ?
このようなご経験があったから、文系人間にも楽しく読める本書のようなものが書けるのかもしれないと思いました。
*1:まーこんなことえらそーに自分も書いていますが、実の所理系の人からみれば「ふつうの人」とどんぐりの背比べです。