lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

くろべえの思い出。

ネットサーフィン(←もはや死語)をしていたら,フォレストヒルというペンションのページ内にあるコンテンツに惹かれ,しばらく読みふけってしまいました。
クロベー物語
クロベーとポンタの日記(1996-2002)
ポンタの日記(フォレストヒルトップページのリンクからご覧下さい)
クロベーとポンタは,ペンションオーナーの飼い犬で,クロベーは名の通り真っ黒な日本犬系の雑種犬,ポンタは柴犬です。クロベーはすでに亡くなっていますし,ポンタの日記も2006年7月が最新で,ペンションそのものもどうも休業中のようです(ペンションのブログも2007年9月が最新記事)。近況が見られないのは残念ですが,写真と文章からはオーナーの犬への愛情と落ち着いたお人柄がうかがえるようでした。
クロベーは「生後50日くらいの子犬にも拘わらず(中略)顔もお世辞にもかわいいとは言えない“貧相な”ものでした。」と書かれてしまうくらい「冴えない犬」だったそうですが,上記ページの写真,特に年取って鼻先が白髪交じりになる前の若い頃の姿は,日本犬(雑種といっても恐らく土着の犬の交雑)独特の凛とした素朴さがあり,なかなか好感がもてます。
ポンタは柴犬といっても結構がっちりした体格に見え,現代的(都会の)スタンダードからするとややオーバーサイズになるくらいかもしれません。ただ,冬毛と夏毛の姿ではひとまわりくらい違う印象も受けるので,寒冷地の外飼いで毛量豊かなせいで膨張して見えるのかなとも思います。また,これくらいもこもこがっちりしているのが,本来の柴犬の姿なのかもしれないなとも思いました。
lionusの近所(街)で見かける柴犬は,皆揃って顔がキツネじみてほっそりスマートで,体も(肥満してなければ)華奢ですらりとして,毛並みも洗練されています。
ポンタは,エラが張ったタヌキ顔で,上述の通り何もかも今時ではないので,逆にlionus的にはかわええ!と思えてしまいました。
・・・前振りが長くなり,標題から随分脱線してしまいました。
本来書きたかったのは「クロベー」ではなく「くろべえ」のことです。
「くろべえ」とは,lionusが関東に居た頃,同じく関東に住んでいた親戚の飼っていた,樺太犬*1の血が入った雑種犬です。体格は日本犬系で小型〜中型でしたが,樺太犬混じりらしくやや長毛で全身真っ黒のぼさぼさした犬でした。
lionusは母に連れられてよくその親戚の家に行き,くろべえと遊んだり散歩をしたことをよく覚えています。
当時,くろべえはまだ成犬になりたての若犬で血気盛んな頃でしたが,性格は極めて冷静沈着で,今思い返しても家庭犬としては最高といえそうな性質の犬だったと思います。まあ,lionusの思い出美化フィルタがかかっていることも考慮すべきですが・・・
具体的には,

  • 無駄吠えをしない。くろべえの吠え声を思い出そうとしても思い出せないほど,普段の生活では吠えなかった。
  • 適切な警戒心を持つ。怪しい人間とそうでない人間との区別を自分でしていた。初対面でも,飼い主の知り合いには友好的な態度をとれていた。多分,飼い主の顔色で判断していたのだろう。犬のくせにエライ。
  • ちゃんと番犬になる。例えば,ゴールデン(洋犬)は友好的過ぎて番犬になるどころか泥棒に盗まれるという冗談がありますが,親戚宅に不審者が侵入した時には,背後から黙って近づいて噛み付き,不審者を「捕獲」*2したらしいです。ウソみたいな話ですが,ホントウです。
  • 子どもへの対応を(教えてないのに)心得ている(ようだった)。当時lionusは3〜5歳の幼児で,元気いっぱいのくろべえが本気でじゃれついたら押し倒されるくらいの体格だったはずです。しかし,くろべえにそんなことをされた覚えはなく,逆にlionusが彼にもたれかかったりじゃれたりしていた覚えしかありません。ふさふさしたしっぽをいじり倒しても,何も言う様子がなかったのは,今思うと申し訳なく思うくらいです。多分,小さい子どもだから少々のことは許してやらんと,という感じだったのかもしれません。また,散歩の時lionusが一人でリードを取って普通に歩いていたのを考えると,犬の散歩でしばしば見られるように,犬が飼い主を引きずるようなことはなく,リードを持つ人間の歩調に合わせて歩くだけの「お行儀のよさ」があったのだと思います。

こんなことを書いていると,くろべえがスゴイ名犬であったような気がします。
でも,ただ1度だけ,極めて冷静沈着で我慢強いくろべえが「怒っている」姿を見たことがあります。
lionusに妹が生まれ,その妹が1歳過ぎて歩けるくらいになった頃,lionusと母,妹の3名で親戚宅に行った時のことです。よちよち歩きの妹が,玄関のたたきで寝そべっているくろべえに近づき,その体を触り始めました。触るのは別に悪いことではないのですが,その触り方が何と表現したらいいのか,「べたべた」した感じで,人が愛情をもって犬を触る(なでる)のとはちょっと違う感じの種類のものでした。生物ではなく,無生物を遠慮なく触っているのに似た印象でした。まあ,1歳過ぎの子どもですから,好奇心からで悪意はないのですが。
lionusはその様子を傍で見ていて,何かやばいなあと感じていたのですが,自分も子どもだったので,何をどうすれば,妹にどう言えばそれをやめさせることができるか困惑していました。
で,触り方が犬にとって気持ち悪くても,くろべえはじっと我慢していたのですが,結構長くそれが続くので,低い声で「ヴヴ・・・」とちらりと歯を見せつつ小さくうなり始めました。
「あ!くろべえが怒ってる!」とすごくすごくびっくりしました。
初めて見た表情だったので,思わず「くろべえが怒ってる!」と母のところに訴えに走りました。
あわてて母は玄関に行き,まだくろべえを触っているlionus妹を抱き上げ,くろべえから引き離しました。
その後,ひとしきり,くろべえが怒るなんて本当に珍しい,余程嫌だったんだろう,それにしてもくろべえにlionus妹が噛まれたりしなくてよかった,等々,母と親戚が興奮して喋っていました。
それだけくろべえが我慢強い犬だったということです。
散々くろべえの賢さぶりを書いてきましたが,何故くろべえがそんなに賢かったのか,今でも理由が分かりません。
と,いうのも,飼い主であった親戚はおよそ「犬のしつけ」ということには疎かったと思われるからです。くろべえの他にも,くろべえの母犬である「リリー」も飼われていたのですが,いつ見てもワンワンキャンキャン吠えて落ち着きのない犬でした。あまりにもシャイでかつ攻撃的だったので,庭の端っこに囲いをしてその中に閉じ込めたきりの飼い方をしていました。噛まれるといけないからと,lionusは近づくことを許されていませんでした。
今思うと本当にひどい飼い方です。あんな扱いをしていたから余計に「性格が悪く」,始終無駄吠えをするようになってしまったのではないかと思います。
だから,くろべえの「賢さ」は飼い主のしつけによるものではなく,たまたま本犬の資質がそうだったのではないかと推測します。
実はくろべえはあまり長生きは出来なかったのですが,雑種としては若くして亡くなったことには,飼い主の不適切な飼育法が背景にあったようで,自分が飼っていたわけでもなく,伝聞ながら,惜しいことをした・・・とかなり悲しくなってしまったことを思い出しました。
今でもつい「くろべえ」を重ねて思い入れをしてしまうので,樺太犬ひいきです。*3

*1:南極物語」で有名なタロとジロは樺太犬

*2:実際に「捕獲」したのはくろべえに噛み付かれ思わず叫んだ不審者の声に驚いて出てきた親戚と,通報で駆けつけた警察官ですが。

*3:ちなみに母犬の「リリー」はシェルティを思わせる洋犬的な雑種で,樺太犬風のくろべえとは似ていなかったので,父犬に樺太犬の血が濃く,たまたまくろべえにそれが強く出たと勝手に考えている。ただし父犬はどんな犬か知らないので,くろべえの資質が父方から伝わったものであるかどうかは判断できない。樺太犬についてちょっとぐぐると,寒さと粗食に耐える狩猟犬という由来があるようだから,確かに辛抱強くかつ飼い主をよく見て自己判断する自立心のある犬種であると考えられそうだが(飼い主の動きを見て自己判断して動けないと狩というチームプレーは出来ない)。また,樺太犬が賢いとすれば洋犬の多くに見られるような,人による訓練(社会化)が前提にあるものでなく,極めて野性味の強い,生きるための最適を求めた結果のものであるように思うし,くろべえの賢さもその類のものであったように感じている。