lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

墜落〈第6巻〉風と雨の罠/墜落〈第7巻〉衝突とニアミス/墜落〈第8巻〉離陸、瞬時の決断/墜落〈第9巻〉着陸、危険な時間/墜落〈第10巻〉人間のミス(全10巻読了。)

『墜落』シリーズ読み終わりました。堪能しました。

墜落〈第6巻〉風と雨の罠

墜落〈第6巻〉風と雨の罠

この巻には6事例が収録されていますが,その中の5例が米国内のものです。航空網が発達しているので,事例が豊富であるということもありますが,国土が広大で気象もダイナミックであり,飛行機がハードな風雨に出会うことも多いのかもしれないと思いました。
例えば,本書では「マイクロバースト」により離陸直後に墜落した事例が挙げられています。

マイクロバーストとは,小さな(マイクロ)強い下降風(バーストの本来の意味は爆発)である。

マイクロバーストが地面に当たると,流れは放射状に広がる。その中を横切る航空機は,まず向かい風の増加に出会う。次にマイクロバーストの中心に至ると,向かい風がなくなり,下降風の領域に入る。最後に中心を抜けると,追い風が待っている。
風の一連の効果は,航空機にとって,急激な向かい風の減少と,下降風への遭遇と等価になる。特に向かい風の減少は,対気速度を失わせ,航空機を下降させる。地面近くで高度に余裕のない航空機にとっては,危険である。

本を読みながら,上記のような風の中で翻弄されるボーイング727の機体が目の前に浮かび上がるような感覚がしてしまいました。

墜落〈第7巻〉衝突とニアミス

墜落〈第7巻〉衝突とニアミス

空には地上のように目に見える「道」はありませんが,所定の航路はあります。しかし,それは目に見えるものではないので,方角や高度などきちんと設定して飛ばないと,間違った「道」に入り込んでも気が付きませんし,見えない空の「道」を進んでいる沢山の飛行機を交通整理するために管制があるわけですが,人間のやることですから,ミスや見落としが時に起こります。
もし,この『墜落』シリーズから,映画やドラマなど映像化するとしたら,この巻はどれも”よい”素材だと思いました(大変不謹慎ですが)。事故の原因とか過程がとても人間くさいのです。機体や風雨など,ちょっと立ち止まって考えないと理解しにくい原因による事例よりも,観客(視聴者)に分かりやすく感情移入しやすいと思うのです。
どれも興味深いのですが,「病みあがり機長,霧の空港で道*1に迷う」は,操縦室内での主従関係が逆転して副操縦士>機長になった事例で,こんなこともあるのねぇと半ば呆れながら読みました。
墜落〈第8巻〉離陸、瞬時の決断

墜落〈第8巻〉離陸、瞬時の決断

この巻には1996年の福岡航空でのガルーダ・インドネシア航空の墜落事故が収められています。日本の事例は他国のものに比べて身につまされます。

離陸は,最大推力で行われる。滑走路の長さが限られているからである。しかし,万一途中で不都合が生じた場合,航空機は滑走路上で停止できなければならない。
その境目となる速度を,離陸決心速度という。通常V1で示される。V1を通過したら,航空機は離陸を中断してはならない。離陸事故の多くは,このV1前後に集中して起こる。

「クルマは急に止まらない」と同様,飛び立つために最大パワーで爆走している中途では,何があっても容易には止められないということですね。
でも,V1を通過しても「パイロットは,本能的に地上に戻ろうとする」ために,離陸事故が起こるのだということです。

墜落〈第9巻〉着陸、危険な時間

墜落〈第9巻〉着陸、危険な時間

着陸には,速度を下げることが必要で,このとき航空機は,性能的には脆弱になる。また,正確な経路の制御が必要で,このことは特に悪天候時に問題になる。
さらに,パイロットは,最終的には滑走路を見ることが必要になる。外界に心を奪われると,計器の監視(モニター)が,特に高度の監視がおろそかになりやすい。

高度の監視(認識)が不十分で,着陸遂行に十分な高さかと思って進入したら思いの他低くて,滑走路の手前に墜落したりするような,事後に第三者から見ると「何で?」と思うケースがあることが分かりました。
あと,滑走路を見ていても「思い込めば見れども見れず」,着陸禁止の「×」印がついている工事中の新滑走路(羽田)に誤着陸したケースは,人の心理の不可解さをしみじみ思いました。

墜落〈第10巻〉人間のミス

墜落〈第10巻〉人間のミス

この巻には,1994年の名古屋空港での中華航空機墜落事故が収められています。
他の巻でも,人間のミスから派生した原因によるものが扱われていますが,この巻は「人間のミス」と銘打ってあるだけに,いかにも「トホホ」なミスが事故を引き起こしたケースが扱われています。
どの事例もそれぞれに衝撃的なのですが,中でも凄かったのは「窓が飛散,機長の上半身が機外へ」(1990年ブリティッシュ・エアウェイズ)です。何がミスかというと,操縦席の窓ガラスのひとつをはめ直した時に,使ったボルトを,型番できちんと確認せず,見た目で判断して,本来のものよりも小さいボルトを使って留めたため留めが弱く,いざ離陸して外の気圧が下がったら,機内との気圧差に耐えられず,窓が吹っ飛んで機長が窓から吸い出されたのです。同時に,操縦室のドアが吹き飛ばされましたが,スチュワードが操縦室に飛び込んで機長の腰に抱きつき,機外に放り出されるのを辛うじて止めたそうです。他のスチュワードも加わり,機長の足首を引っ張って機内に確保しようとしましたが,うまくゆかず,仕方がないので,そのまま機長を引き止めたまま,副操縦士の操縦で緊急着陸して機長を救助した(骨折等負傷はしたが一命はとりとめた)事故でした。
緊急着陸する過程での進入管制と副操縦士との交信が何ともかんとも・・・

進入管制「5390,与圧が破れたと聞いている,問題はそれだけか」
副操縦士「えー,違います,えー,機長は体半分機外へ吸い出されている,私は,彼は死んでいると思う*2
進入管制「了解,書きとった」
副操縦士「えー,客室乗務員が彼を押さえている,しかし,えー,機長に緊急施設の用意*3を頼む,私は,死んでいると思うが*4

・・・機長(涙目
窓が破れて吸い出されてから,着陸するまでずっと上半身が外に出ていたなんて,いかに高度に職業的訓練を受けた機長であっても,生きた心地がしなかったでしょうが,スチュワーが必死に引き止め続けてくれたのは不幸中の幸いでした。・・・これがスチュワーデスのみの乗務であったら,どうだったでしょうか・・・火事場のくそ力とかいいますが,体力的にはかなり厳しかったのではないか,と変な想像をしてしまいました。

*1:ゲートから滑走路に通じる道

*2:太字はlionusによる

*3:多分,救急車とかでしょう。

*4:太字はlionusによる;それにしても2度も言いますかね。