lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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日本全国路面電車の旅/路面電車ルネッサンス(路面電車に関する新書。)

日本全国路面電車の旅 (平凡社新書)

日本全国路面電車の旅 (平凡社新書)

編著者を含め3名の著者が、全国の路面電車の走る街を電車と絡めて紹介しています。
冒頭にはカラー写真があったり、電車そのものの記述だけでなく、試乗がてら行ける観光スポットも言及されていますので、単なる「乗り鉄」ではなく、旅を楽しみつつ路面電車も楽しみたい人には参考になる1冊です。
個人的には「江ノ電」に乗ってみたくなりました。鎌倉も、物心つく前に訪ねたきりで、「鎌倉の大仏」を見たんだよと親に言われてもさっぱり憶えていないので、改めて見学してみたいです。
路面電車ルネッサンス (新潮新書)

路面電車ルネッサンス (新潮新書)

こちらは、経済学の視点から、路面電車を都市再生の切り札として論考している、なかなかアカデミックな新書です。
各地の地方都市では、車社会の発展の結果、郊外型の大店舗が栄える一方、中心街にある昔からの商店街が衰退していることが問題となっています。
路面電車を自家用車に代わる郊外(住宅地ゾーン)と中心街商業地を結ぶ交通手段として活用し、寂れかけた中心街に人を呼び戻そうとするのが本書のスタンスのようです。
この本を読んでひとつ気付かされたのは、「自動車(特に自家用車)は非効率的な交通手段である」ということです。

  • 一人当たり専有面積が大きい
  • 単に移動するにとどまらず、(都心部に)駐車スペースが必要
  • エネルギー消費などの環境負荷が高い

主に以上のような点から、電車(のような大量輸送が可能な交通手段)に比べ自動車が非効率であると指摘されていました。
あと、自動車の「外部不経済」性という考え方もlionusには新鮮でした。

これは簡単にいえば、個々の企業や個人の経済活動によって、他の企業や人に悪影響をもたらす効果で、自動車の場合、道路混雑から環境汚染まで、外部不経済の範囲は広い。本来、こうした悪影響を取り除く費用も含めて、自動車の利用にかかる費用を考えるべきであるというのは、「自動車の社会的費用」として古くから知られる議論である。

要するに、自家用車は「贅沢品」なのだと思いました。
自家用車を使うことは、多方面に「負荷」をかけて便利さを追求する側面があるということです。
人間は本来自己中心的ですから、自分の便利さを追求するのは自然なのですが、最大多数の幸福を求めるならば、自家用車の利用にある一定以上のコストがかかるようにし、ハードルを高くしてその利用をそこそこに抑制する必要があるでしょう。
しかし、公共交通機関に原則として「独立採算」が求められる日本では、自家用車の利用コスト(自動車購入資金、ガソリン代等)よりも運賃のコストが(自家用車の便利さと秤にかけた上で)「高く」つくために、自家用車の利用が減少しないというのが現状のようです。
ガソリン税道路特定財源として道路整備に使うだけでなく、もっと路面電車など公共交通機関のために使って欲しいなあ(その必要がある)*1と本書を読んで思いました。
あと、この2冊を読んでいる頃に、こんなWeb上の記事に出会いました。何かしら連鎖反応的だわと感じてしまいました。
トラムが走る街とトラムが創る街

地元商店街の「車がなければ商売は成り立たない」という固定概念を覆した、欧州の新世代トラム(路面電車)。路線バスや鉄道を合わせ、地方の公共交通網をどのように存続させるか。そこには、「交通弱者を切り捨てないために赤字を容認する」という思想がある。

*1:独立採算では運賃が高くなるので、各地の公共交通機関補助金を出し運賃を下げたり、あるいは零細な地方公共交通機関の廃止を何としてでも防ぐのに使うとか。