lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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地震予知を考える(黒か白かに片付けてしまいたい心理。)

地震予知を考える (岩波新書)

地震予知を考える (岩波新書)

もう少しで予知が可能であった例として兵庫県南部地震(1995),伊豆大島近海地震(1978),日本海中部地震(1983)を解説しているのが興味深いです。しかし,地震の直前予知には多種多数の観測ポイントを並行して検討することが必要なこと,そしてその検討には深い専門的知識が求められること,を考えると,地震予知はまだまだ研究途上であり,天気予報のような実用段階には程遠いことがよく分かりました。
そのことを踏まえ,著者は「大規模地震対策特別措置法(以下,大震法)」(1978年)の問題点を指摘しています。

他の地震の短期の予知は困難であるとしても,「東海地震はほぼ確実に直前予知が可能である」というのが大震法の立場である。

ところが,この法律制定のときに国会で参考人として述べたほとんどの地震専門家は,現段階では確度の高い地震予知はむずかしいこと,地震予知はまだ研究開発途上の問題であるという意見をくりかえし述べていたのである。(中略)
こういう確度の高い短期予知に慎重な意見が強かったにもかかわらず,政府(気象庁国土庁)は予知を前提とした大震法を成立させ,しかも,警戒宣言が発令されると,きわめて大きな社会活動への影響を与えるにちがいない強い対応措置をとることを決めて,今日にいたっている。

東海地震の警戒宣言が発令されると,指定地域における新幹線運休や大型店舗,銀行等の営業停止,学校の休校などにより,一日あたり約2700億円の損失(社会的コスト)となるそうです。
著者は1991年から1996年まで地震防災対策強化地域判定会の会長を務め,地震が発生する確率を100%(黒)か0%(白)かに峻別するのではなく,中間レベルの「注意報」的なものを設ける(つまり,気象予報における降水確率のように確率的な考えを取り入れる)必要性を主張しています。
天気予報に比べて地震予知はリソース(携わる専門家の数,観測点などの物的資源)がずっと少ないのに,地震にだけ(黒か白かの)百発百中を求められるのはカナワン(お天気予報は雨の確率×%とかで通るのに)という声が聞こえてくる感じでした。