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日本の地震災害(人間の一生は短いが,大地の時間は長い。)

日本の地震災害 (岩波新書 新赤版 (977))

日本の地震災害 (岩波新書 新赤版 (977))

20世紀以降に日本で発生した主要な地震について,タイプ別に解説されています。タイプ別,といっても地震そのものの型ではなく,「都市を壊滅させた直下地震」など,人間社会に対する影響の観点から分類されているのが特色です。
難しい記述はなく,スラスラ読めました。興味深かったのは,「戦争に消された大震災」です。
終戦前後の5年間には,実は千人規模の死者を出す大地震が相次いだそうですが,終戦間近の1944〜45年に発生した東南海地震三河地震は戦時中の情報管制のため,地震の報道は厳しく制限され,国民はその事実(実態)を知ることはなかったそうです。
その戦時中の情報管制が戦後にも影響した例として諏訪市のことが挙げられていました。

長野県諏訪市は,東南海地震震源域から200km以上離れていたにもかかわらず,多くの建物が全半壊するなどの被害を受けた。諏訪湖の沿岸に発達している諏訪市は,地盤が軟弱なため,震度6に相当する揺れに見舞われたのである。

諏訪警察署長は,市民に対して次のような布告を発表している。
「本日午後1時40分ごろ,諏訪市震源とする地震発生。市内に大きな損害がでたが,郡民は流言に惑わされず,復旧と生産に励め」
警察署長が,この布告のなかで”諏訪市震源とする地震”と発表したのは,市民に諏訪の局地的地震と思いこませ,名古屋方面の大震災について知る機会を与えない意図があったからとも考えられる。そのため諏訪の市民は,戦後の長いあいだ,この地震を”諏訪地震”と呼んでいた。
市民がこれを東南海地震だったと知るのは,地震後40年を経た1984年であった。

2002年,諏訪市をはじめとする周辺6市町村は,切迫する東海地震に備えるための「地震防災対策強化地域」に,新たに編入されたのである。