lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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情報と戦争 叢書コムニス02(ネックは人の心。)

情報と戦争 叢書コムニス02

情報と戦争 叢書コムニス02

近年の情報技術の進歩が戦争(のやり方)を大きく変えているというお話です。豊富な知識に基づく確実な記述という印象です。
ネットワークを介し瞬時に情報を伝達できるようになったことから,例えば次のような作戦も可能になったそうです。

それはバグダッド陥落2日前の4月7日のことであった。(中略)バグダッドマンスール地区という高級住宅街にあるレストランに,サダム・フセイン大統領以下政権幹部が集合するという情報がもたらされた。おそらく米本土の国防総省経由でこの情報が中央軍司令部に伝えられると,その場所を攻撃して,フセイン政権幹部の抹殺を図る作戦の実施が決定された。直ちにCAOCは攻撃手段の選択に入ったが,ちょうどその時,別の目標を攻撃するためにJDAMを搭載してバグダッドの近くを飛んでいる米空軍のB-B1爆撃機がいた。レストランの場所(座標値)はデータベースからわかっている。その爆撃機に,当初の目標攻撃を後回しにしてバグダッドのレストランを攻撃するよう命令が与えられ,レストランの座標値が爆撃機に伝えられた。指令を受けたB-B1は直ちに針路を変更,バグダッド上空に到達すると,指示された座標値に向けてJDAM4発を投下した。爆撃機の乗員には,その目標が何であるかは知らされていない。乗員はJDAMを落とせと指示された座標値を,搭載するJDAMに入力して,ただ目標近くで投下しただけである。(中略)投下されたJDAMは,まさに目標のレストランに直撃し,その建物だけを破壊した。

もし,このような作戦を12年前の湾岸戦争当時に行おうとしたら,4日から1週間を要したであろう。

さらに,ネットワークで各部隊や兵器を結ぶことにより,陸海空といった区別を超えた統合作戦が可能になっているそうです。
しかし,著者は次のようにも書いています。

しかしだからと言って,陸海空軍の軍種の区別が不要になったわけではない。(中略)
まず何しろ人間の能力には限界があって,陸戦もできれば軍艦の操艦もでき,ジェット戦闘機を飛ばせる人間はいない。(中略)
そうするとやはり陸軍,海軍,空軍という軍種区分は,いくら技術が進歩しても,今後も長く残るものと予想される。これが統合作戦の実現を難しくする。陸海空と分かれていると,どうしても各々の縄張り意識が生まれてくる。
お互いの専門性と相手の実情に対する知識の欠如からくる確執が生まれがちである。別の言葉で言えば,相手を信用(信頼)できない。
信頼ができない以上,情報の共有は難しい。(中略)互いに信頼していないと,すべての情報を提供しようとする気持ちにならなくなるし,(ネットワークから)提供された情報を信じない結果になりかねない。
これは「文化(カルチャー)」の問題である。ネットワークというものをどのようなもので,それによってどのような効率(戦闘能力)の改善を得られるかを理解できる「意識革命」が必要とされる。だがそれは容易なものではない。同じ者同士で群れるという,人間性(人間の特性)に関する問題だからである。