lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

HARS秋季シンポジウム。

ヒトと動物の関係学会2006年秋季シンポジウム「上方と江戸の動物観」を聴講してきました。

  • 京・大坂と江戸の間・・・「鳥獣戯画」から「生類憐みの令」まで(奥野卓司先生、関西学院大学
    • 先生のご専門での文化人類学社会学)では一次データ(調査、フィールドワーク等)を使うことが原則。でも江戸時代にはタイムスリップできないので、絵画や文学などの二次データを使わざるを得ない。
    • 大阪は「八百八橋*1」、町民によるメセナ活動。江戸は「八百八町」、お上の支配が強い。
    • イヌは浮世絵など絵画には出てこない→人間の家の中にはいない(地域でウロウロしている;コミュニティ・ドッグ)。一方、ネコは出てくる(家の中にいる)。
    • しかし、イヌの評価は時代変動が少ないのに対し、ネコの評価は西洋・日本とも化け猫扱いや魔女扱いされた一方で、ネズミ退治に重宝がられたり変動幅が大きい。
    • 異種婚、里山におけるタヌキやキツネ等との交流→ヒトと動物が連続的、アニミズム
    • 上方はトラがどうも好きらしい→阪神タイガースに通じる?lionus意見としては、今も関西のおばちゃんは、トラやヒョウ柄ファッションが大好きなのに通じるかも?
  • 里見八犬伝」の大江戸鳥飼ブーム(細川博昭先生、飼鳥史研究家)
    • 江戸時代は我々の一般的(固定的)なイメージとは違った側面もある。庶民もトリをよく飼っていた(江戸のペットブーム?)もそのひとつ。
    • 滝沢馬琴の日記、何十年もあったものが焼失して6年間しか残っていないのは残念ですね。でも、全部残っていたとしたら、先生、検討するのがもっともっと大変なのでわ?ともかく、古い文書資料をよく調べておられるのには感嘆するばかりでした。
  • 「歌舞伎・文楽にみる動物と人間の関係」(森田雅也先生、関西学院大学
    • 演劇がご専門のようで、プレゼンは写真が多かったのに加え最後はビデオ映像も登場し、非常にビビッドなご発表でした。
    • 江戸は「けれん味(観客の目を驚かせるような演出;娯楽性が強い)」なのですね。古典では上方の方が「上品」ということなのでせうか。
    • 動物(人間がかぶりもので演じる)が歌舞伎等にあんなに出てくるとは知りませんでした。
  • 大坂の「孔雀茶屋」と江戸の「花鳥茶屋」(若生謙二先生、大阪芸術大学
    • 4つの発表の中でもっとも学術的に整理された内容だったように思います。
    • 「出会茶屋」って・・・今も昔も人間の考えることは似ていますね。
    • 大坂「孔雀茶屋」が先で、それが「孔雀茶屋」として下り江戸の「花鳥茶屋」になったのか、それとも別々に発生したのか?
    • 大坂の「孔雀茶屋」は綺麗な鳥を庭園をしつらえて見せるなど、後の野外遊園地の原型ともいえるような”鑑賞的”性質があったのに対し、江戸の「花鳥茶屋」はその中で落語をやっていたり、酒肴の提供や奇形鶏の展示など”見世物的”であるのはなぜか?
    • 上記については、後のディスカッションで、江戸は幕府のお膝元で管理が厳しくピリピリしていたので、身近な息抜き場が求められていたからではないか、といった意見が出ていました。
    • また、この両「茶屋」ついては、四足の獣も展示していたのに、なぜ「トリ」の名を冠していたのか、鳥と獣は区別して扱われていたのではないか・・・「トリ」は江戸時代の動物観を解明するのに重要なキーではないか、といった意見もありました。

普段使わない脳みその部分を使ったので妙に疲れましたが、こういう研究(の方向)もあるんだ、と新鮮な気持ちになりました。動物はまだ耕されていない部分が大きいので、開拓の苦労はあっても取り組んでみる価値は大きいとも思いました。

*1:橋もお上ではなく、自分たちの活動のために民間が建てた