lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

軍師・参謀―戦国時代の演出者たち(私も欲しい。)

戦国時代の第一人者が書いた本です。占いの本ではないですが,かつての軍師は占いもその職務の一つだったと聞いたので読んでみました。

かつて,山崎正和氏は,「主将の役割はむしろ過激な決断を躊(ためら)うことであり,それにたいして,副将は味方の世論をつねに攻撃的で積極的な方向に導くことを任務としていた」(『室町記』)(p.16-17)

引用の引用ですが,つい安倍首相のことを思い出してしまいました。かつて官房副長官だった頃,北朝鮮拉致問題で「毅然」とした態度で対し,国民の人気が一気に上がりましたが,首相になってからは「毅然」というよりは,いい意味でいえば八方丸く収める印象,悪く言えば八方美人の腰砕け的な印象がやや出てきています。彼は上記でいう主将というよりは副将がすわりのよいタイプなのかもしれません。

軍師と参謀は本来的にちがうものであり,軍師はかぎりなくマジカルな性質をもっていたものとみている。したがって,大将に作戦を進言したり,また大将と相談しながら戦略を練っていくという姿は,軍師の姿というよりは,むしろすでに参謀に転化した姿とみてよい。(p.135-136)

マジカルな性質は中世〜戦国時代までに強かった,つまり近世以前の古い性質の様子です。
小和田先生の考える「参謀」の特質としては:

参謀というものは,常に主人の側にあったものと考えている。(p.224)
三成を,側に置きながら,しかも,19万4千石という,比較的低い石高で押さえていた事実こそ,三成が秀吉の参謀であったと証明するものではなかろうか。(p.226)
参謀は言葉をかえれば策謀の士であり,それに権力が加われば,秀吉とて,自分の地位が危うくなることは百も承知していたはずである。(p.226)

確かに。近くにいなければ気軽に話し合うことができないですし。

参謀の特質は企画力の優秀性にあると考えている。(p.226)

これは当然ですね。

さて,もう1つ,参謀の特質として指摘しうるのが,言葉としてはなんとなく熟さない感じもするが,主人への批判能力である。(p.227-228)
もちろん,主従関係は基本にあったとしても,その場面においては,主人と参謀は対等ないし,それに近い関係でなければ,参謀としても思ったことをいえないことになる。(中略)主人の考えた作戦に誤りがあれば,それをきちっと指摘できなければ参謀とはいえない。(p.228)

よくぞ書いてくださったと膝を叩いて同意です。
エライ人は叱ってくれる人が欲しいのです(必要なのです)。

使者というと低い身分のようにうけとられるが,この時代,主君の口上を伝える使者は,単に文章を運ぶだけの役目ではなく,(中略)帰趨を決めかねているような場合には,味方に誘うべく,それこを弁舌巧みに説得しなければならなかったわけで,並みの能力の武士をもってすむ仕事ではなかった。(中略)近代軍隊では伝令使は情報将校であり(大江志乃夫『日本の参謀本部』)(p.170)

情報将校については上に引用されている本を読んでみたいと思います。