lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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ペットと生きる―ペットと人の心理学/あなたがペットと生きる理由―人と動物の共生の科学(久々にペット関連。)

ペットと生きる―ペットと人の心理学

ペットと生きる―ペットと人の心理学

副題にある「ペットと人の心理学」に関し広く浅くポイントを押さえたhandbookという印象です。各章の引用文献を省略せず,きちんと載せていたり,邦訳があるものには別途印をつけた上,巻末にまとめてくれているところに訳者の配慮を感じます。
あなたがペットと生きる理由―人と動物の共生の科学

あなたがペットと生きる理由―人と動物の共生の科学

ペットと人間との関係(human-animal bond)について,ポジティブな面だけでなくネガティブな面にも言及している大著です。翻訳がとてもこなれていて読みやすいです。読んでいて,感銘を受けるあまり思わずそのページで立ち止まり物思いにふけってしまう箇所が何度もありました。
長くなりますが,そのような箇所の一部を引用します。

愛する人の間には,何も言わずに抱き合うだけで気持ちの落ち着きを実感できる。どちらかが話しかけるときは,相手を見ながらではないことが多く,無意識のうちに相手にふれている。(p118)

ロジャーズ派の分析家は,ラブラドール・レトリーバーに似てなくもない。確かに,ラブラドール・レトリーバーは支配的ではない。そして,人にアドバイスをすることもなければ,飼い主の生活に意見したり,飼い主が決めた男女間のことや金銭問題を批判したりもしない。ラブラドール・レトリーバーは飼い主の感情の揺れに敏感で,鼻を押し当てて,話を促してみたりする。また,犬特有の何か知りたげな心配したようすで飼い主を見たり,横に座り,指先に毛をからませて遊ばせてくれる。ラブラドール・レトリーバーは,精神科医を超える大きな役割を果たしている。飼い主にさわることも,顔をなめることも許され,犬の機嫌がよいときには,こちらからキスをしたり抱きしめたりすることもできる。しかし,セラピストの場合,危険を伴う緊急時以外,患者にさわることは控えなければならないと教育されてるため,実際の診療では制約がつきまとう。すなわち,セラピストにとってさわるという行為は,ごく短い間に限定され,くり返されることもめったにない。治療の最も難しいポイントは,さわらずに,互いに信頼できる関係を築くことである。(p119)

このような方法で心理療法を見てみると,親密な感情を持てる相手とは,内容のない会話が中心で,両者の会話は一方的であることがわかる。一般的な観点から犬や猫の持つ能力は,親密な感情があってこそ発揮されるということを理解することができる。(p119)

すべての精神科医は,どんな分析家であろうと,たとえカール・ロジャーズ派であろうと,いつかは会話しなくてはならない。そして数ヶ月かかって推測されるようになった過敏性や患者に対する近しい理解を破壊するのも,この会話なのである。(p120)

話すことができないからこそ,人は動物に親密さを感じるのである。(p120)