lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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心理学研究法―心の科学への招待(亀の甲より年の功。)

心理学研究法―心の科学への招待

心理学研究法―心の科学への招待

学問とは,科学とは何ぞやというところから話を起こしてゆくので,心理学研究法そのものの部分は比較的基本的なことにとどまっています。
しかし,心理学の諸分野(知覚心理学,等)についてまとめられているところは,著者の長い教育・研究歴が生きた,分かりやすくかつ的確な記述となっていると思いました。長いキャリアと見識の広さをもつ人だからこそ,書ける本だと思いました。
「心理学」流行りの今,心理学研究における根本的な考えを今一度確認して欲しいという著者の懸念が伝わってくるような本でした。

日本では,目先の独自性(originality)を優先するあまり,ここで述べたような,研究水準*1を無視する傾向があります。研究内容は水準が低く,心理学の進歩にとって役に立たない論文が毎年山のように作成されています。

独自性はあるが,水準が低く役に立たない研究がよいか,独自性には欠けるが心理学に貢献する,意味のある研究が良いかの選択になります。独自性を求めるより,研究と呼べる論文を書くことが学生の将来にとって,よほど役に立つと考えます。
(中略)
そこで筆者は,学生たちには,追試を推奨したいと思っています。追試の利点は,最も重要な研究課題に触れられること,一流の研究者が行った実験方法を具体的に体験することができることの二つにあります。
さらに,このように信用ができる追試研究が多く行われると,心理学が発展するために重要な貢献をするでしょう。

*1:研究仮説を見出す段階である観察・調査を経て,仮説に基づいた研究である探索実験,検証実験・追実験と進んでいくほどに研究水準が上がっていくという。