lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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1995年1月・神戸「阪神大震災」下の精神科医たち

1995年1月・神戸――「阪神大震災」下の精神科医たち

1995年1月・神戸――「阪神大震災」下の精神科医たち

阪神淡路大震災後20年ということで,久しぶりに読んでみました。

pp.73-74 過去の災害にもとづく推論の限界と陥穽
まだ答えはない。PTSDの概念にあてはめることはひょっとすると「将軍たちはいつも1つ前の戦争を闘っている」という警句にあてはまってしまうかもしれない。この警句の意味は第一次世界大戦日露戦争をモデルとして戦い、第二次大戦を第一次大戦の方式で戦ったという事実をふまえてのことである。既成の将軍たちの論理がつき果てたときに、戦争は現実から教訓をもぎとって新しい論理を組みたてえた者に引き継がれていった。
戦争にかぎらず、すべてのキャンペーンはそうなのであろう。ただひそかに恐れるのは第二次世界大戦日本海軍の処遇をくりかえすことである。原為市少将や田中雷造少将など米国の戦史に激賞されている即興能力の持ち主は後に左遷されていないまでも昇進していない。

中井久夫先生による手記・記録+神戸の精神科医の先生方やボランティアに来られた先生方による手記からなっています。
突然の災厄に神大精神科や神戸の精神科医療関係者がどのように対応したのか,その当時でなければ書けないような臨場感で書かれています。
災害は起きるたびに新しい課題を我々に突きつけてきます。「将軍たちはいつも1つ前の戦争を闘っている」のかもしれませんが,起こってしまったものはどうしようもありません。自分の限界を心のどこかにとどめおきつつ(自分も倒れたら他に迷惑なので),踏ん張ってやるしかないのです。
なお,本書は絶版のようですが,東日本大震災後に本書に掲載された中井先生の文章を再編集・追記ありの『災害がほんとうに襲った時』*1

災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録

災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録

が出ています。

*1:ご本人も書かれていますが,ラファエルの『災害の襲うとき』のもじりですよね。