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大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇―

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇

1989年出版で,ちょっと古い本です。どこ経由で知って読みたくなったのか忘れてしまいましたが,長らく読みたい本リストに並んでいたものをやっと読めました。
内容はタイトル通りです。陸大を出てすぐに大本営情報部に配属され,若くして情報参謀として働いた方の手記です。
「まえがき」より:

p.1
情報という言葉が,毎日のテレビやラジオや新聞などに現れない日はない。
(中略)
しかしそういう情報は,相手の方から教えたい情報であり,商品として売られるべく氾濫しているものである。
ところが情報の中には,売りたくない情報,教えたくない情報,知られては困る情報も多々ある。そのような情報の多くは,相手に取られると,こちらの企図や意中を悟られて不利益をまねく類いのもので,それをめぐって取ろうとする者と隠そうとする者との間には,必然的に争いが生じる。この争いが情報戦とか,最近では諜報戦などと言われている。

「あとがき」より:

p.284
戦争が終わって郷里に引揚げた昭和20年秋,堀は「悲劇の山下兵団」と題して,某出版社向けに4百枚ほどを書き綴った。傍で見ていた父が,「負けた戦さを得意になって書いて銭を貰うな!」と叱った。
(中略)
それ以来,堀は戦争についてはいっさい貝になっていた。それが敗戦から41年目の夏,ある雑誌の座談会があり,堀は出席していなかったが,レイテ島決戦失敗の原因は「台湾沖航空戦の過大戦果を戒めた堀の電報を,大本営作戦課が握り潰したからだ」と,ある人が発言した。それが切っかけになって,堀が情報の仕事をどのように覚え,どのように処理し,どのように判断していったかが,各方面から注目を受けだした。

p.285
いまや,戦争を体験しない人たちの世代となって,当時のことを知る術が次第になくなっている。そう思うと勧めに従って書くことが必要だと感じだした。だからといって,本書は情報のマニュアルではないし,日本軍における情報関係を体系的に研究したものでもない。ある日突然,情報の世界に放り込まれてしまった男が,そのときどきの波や風に翻弄されながら困難と苦境にぶつかって鍛えられ,「情報職人」となって働いた個人的体験記録である。

「個人的体験記録」とある通り,読んでいて「君カッコよすぎだろ!」と(大変失礼ですが)ツッコミを入れたくなるような箇所もあるのですが,主観的ながらその主観が内容の率直さを保証しているような感を持ちながら読みました。
当時の旧日本軍のダメなところ(作戦重視の情報軽視,情報音痴)は,現在の日本にも変わらずで,耳が痛いというよりは,胃が痛くなるような思いがする箇所が沢山です。ああ。