lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

環境考古学への道(iPS細胞やSTAP細胞にも勝るとも劣らない、日本人の快挙のひとつでは。)

ミネルヴァ書房から順次発刊されている、シリーズ「自伝」my life my worldシリーズのひとつです。
本書の安田喜憲先生がどんなご研究をされている方なのか、自分は知らないという認識で、あくまでもこのシリーズの一冊ということで手に取って読んでみました。
するとびっくり。
いくつも自分の過去経験と交差しているところがあって、あれあれと思いながらたちまち読み終わってしまいました。
その過去経験のひとつが、以前NBオンラインでほお〜と感嘆しながら読んだ「年縞」に関する記事です。
年縞とは、いわば「湖沼の底に残された“年輪”」のようなもので、

「縞」は、植物の葉や花粉、植物プランクトンの死骸(殻)、周囲の山が浸食され流れこんだ土壌、湖水に含まれる鉱物質、火山噴火による火山灰、飛来した黄砂などからなる。津波が運ぶ砂が混じることも。それらが作る1年分の「縞」の数を上から勘定していけば、正確な「年」がわかるのだ。さらに縞を詳しく読み解けば、その時代に何があったのかもわかる。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20130819/252353/?P=2

福井県水月湖をボーリング調査して得られた「年縞」が、2012年7月の国際会議で

世界の歴史の「標準時」となった。
「世界時間」はロンドンの天文台があるグリニッジを標準とするが、「水月湖」は今後、考古学や地質学、地球の環境の推移を知る「歴史の標準時」として欠かせない「ものさし」になったのだ。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20130819/252353/

ということです。
この「歴史の標準時」となった「年縞」の研究グループを率いていたのが、著者の安田先生だったのです(その後水月湖年縞研究グループのリーダーは安田先生の指導を受けた中川毅先生となっていくのですが)。

日文研」とは、1987年(昭和62年)、京都市に設立された大学共同利用機関国際日本文化研究センターのことで、哲学者で京都市立芸術大学名誉教授の梅原猛さんが設立に尽力し初代所長もつとめている。
1980年頃のことだが、地中海での古代ギリシアの考古学調査のことを話してくれた梅原さんが、私に興奮ぎみにこう語ってくれたことを思い出した。
「すごい研究者がいるんだ。古代の環境を花粉の化石から解き明かすんです」
そのすごい研究者が、安田喜憲さんだったのである。
じつは、水月湖の「年縞」研究は、この安田さんの仕事として始まっている。英語の「varve」に「年縞」という訳語を創ったのも安田さんなのである。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20130819/252391/?P=3

過去の出来事(環境変化)がぎゅっと凝縮された「年縞」を調べることにより、地震津波をはじめとする災害研究ができるそうです。ということで、以下のように喝破されています。

p.235
地震の予知は、いくら数千万円もする地震計を設置しても分からない。なぜ地震が起こるかのメカニズムの解明は、地震計を設置する地球物理学主導の研究手法で解明できる。しかし、これから何年後に巨大地震が起こるのかという地震予知は、現在をいくら精緻に分析しても分からないのである。未来を予知するための情報は過去しかないのである。過去から現在を見て未来を予知するという環境考古学的手法しか、私たち人類は未来を予知する方法を持ちあわせていないのである。

p.235
未来を予知するためには過去の情報を精緻に分析し、そこから未来を予測するしか方法がないのである。その過去の情報を年単位・季節単位で記録し保存しているのが年縞なのである。

地震だけでなく、現在問題になっている地球温暖化の原因の解明も、今後の見通し予測も、(年縞により)過去の気候変動を調べないとホントのところは分からないではないか、排出権の取引などよりももっと先にやるべきことがあるじゃないか、とも危惧されています。
私はこの水月湖の年縞のことはNBオンラインの以下の記事でしか読んでいないのですが、あまり話題になっていないのではないでしょうか。
日本の「水月湖」が世界の歴史のものさしに! 「年縞」を読み解いた在英日本人研究者(その1)
日英で表彰、「水月湖」に世界から熱い視線 「年縞」を読み解いた在英日本人研究者(その2)
いよいよ水月湖を掘削へ、研究者たちの貧しく暑い夏 「年縞」を読み解いた在英日本人研究者(その3)
7万年分の「地球の記録」を引き揚げる 「年縞」を読み解いた在英日本人研究者(その4)
「サイエンス」誌が異例の記者会見を開く 「年縞」を読み解いた在英日本人研究者(その5)
20年越しのジャパニーズ・ドリームを実現! 「年縞」を読み解いた在英日本人研究者(最終回)
でも、これももしかするとノーベル賞級の研究なんじゃないかと本書を読んで改めて思いました。