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自閉症スペクトラム障害――療育と対応を考える(”なまあたたかく”見守るのはやさしさじゃない。)

自閉症スペクトラム障害――療育と対応を考える (岩波新書)

自閉症スペクトラム障害――療育と対応を考える (岩波新書)

Amazonさんにおすすめされたので読んでみました。
もう何年も前に発達検査関係からは撤退したので、2010年に障害者自立支援法が改正され、自閉症を含む発達障害精神障害の一部として位置付けられるようになり、「状況によっては障害者手帳を取得するということも可能」になったとは知りませんでした。
カナー型だと知的障害の方で手帳を取れる場合もあり(言葉の遅れなどをともなうため)、福祉的サービスの対象となれるが、平均以上の知能をもつ高機能自閉症ではそうではない、ということが従来矛盾というか問題とされていたのが、改善される傾向になったのですね。参考になりました。
本書は新書らしく堅実でかつ平易な語り口で良書だと思います。
具体的な「療育」方法については挙げてある参考書にあたる必要がありますが、自閉症についての基礎知識および療育の必要性、療育とはどんなものかといったことを知るとっかかりになる一冊でしょう。
何よりも当事者の子どもに対する専門家らしく冷静、でありながら真摯かつ温かい気持ちがうかがえる書き方には好感を覚えました。

p.203
ASD、特に高機能自閉症や高機能化したカナー型の自閉症を抱えている場合の目標は、自分に自信の持てる状況、すなわちセルフ・エスティームの高い状況にするということです。そのためには、できないことを少しずつできるようにする努力や取り組み、そしてなによりも「ほめられること」が必要です。
もう一つは、社会で生きていけるようにすることです。これは社会の枠組みの中で生きていくスキルや社会生活習慣を身につけることだけではなく、自分で稼ぐことが含まれます。
こうした最終目標を、大人になってからではなく、子どものころから考えていくことが大切です。「様子を見ましょう」「この子の個性です」と逃げないで、社会生活上の困難があれば対応すべきだと考えています。個性というのは社会生活には困難を来さず、その枠組みの中で生かされていくものです。

あと、子どもへの対応の仕方については、定型発達の子どもの子育てにも当然のことながら応用できるところ大なため*1、”ふつう”の乳幼児の親が読んでもイイ!感じだと思います。

*1:例えば、「 療育においては『指示する』→『実行する』→『ほめる』というサイクルを確立することが大切です。このサイクルを確立するためには、まず指示がわかりやすく、単純な内容であることが必要です。また、出した指示が実行できないという状況を減らすことを考えます。そのためには、視覚的に指示したり、できないことは手伝ってでもできるようにします。(p.74)」「しかし実際には、『指示する』→『実行できない』→『叱る、怒る』というサイクルにはまってしまっている場合をしばしば見かけます。指示の出し方が適切か、つまり『できること』を指示しているか、一度に複数の要素の入った指示をしていないか(段階が進めば当然こうした指示も可能ですが)、実行するたおきに適切な手助けをしているかを見直してください。(p.74)」とか。ま〜定型発達の場合なら親が少々”不適切”なことをしてしまっても、そこまで神経質になる必要はないでしょうけど・・・ただこれが心の底にあるかないかでは違いが出てくることもあるんじゃないかな〜と。