lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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司法臨床入門―家裁調査官のアプローチ(未来志向の上に成り立つ「司法臨床」。)

司法臨床入門―家裁調査官のアプローチ

司法臨床入門―家裁調査官のアプローチ

第2版も出ているようですが、lionusが読んだのは初版です。
著者は、家裁調査官としてお勤めになられた後、大学の先生になられた方のようです。
「非行臨床」という言葉は聞いたことがあり、そういう分野があることは心理屋として承知しておりましたが、「司法臨床」という用語は初めて聞きました。

p.141
たとえば、第三者間の争いであっても、いわゆる隣人訴訟や労働争議などは、将来にわたる利害関係を考慮することが必要になってきます。そうした事件を適切に解決するためには、法律を杓子定規に適用するのではなく、具体的な状況を考えて判断することで、法律家でない当事者にも納得できるような常識に合う結論の妥当性を重視するという、バランス感覚が求められます。

p.141
そのようなバランス感覚を含めてリーガル・マインドとするべきかどうかという議論が法学の世界ではなされています。しかし、異質な利益相互間を比較するための根拠や基準に乏しく、総合的な価値判断は結局、カウンセリング・マインドのに委ねられるものと思われます。

p.142
カウンセリング・マインドをもとにした「臨床の作用」とは、「法の作用」によって不可避的に生じる「モノ」化のプロセスから、生身の「ひと」を呼び起こすことだといえます。

pp.142-143
もともと法の精神として、「人は独立した一個の人格として尊重されなければならない」という、人間に関する重要な概念が前提とされています。「一個の人格」とは、今までに述べた臨床に基づく人間観である、「総体としての人間」の意味と行き着くところは変わりません。このことが、まさに、「法」と「臨床」が限りなく交差することによって生成する、「司法臨床」の本質です。

「臨床」の対象はこの先どうにか、しなきゃの/した方がいい/すべき対象なのであり、そういう意味で未来志向な状況でなければ機能しないのかも。