lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

網を投げる範囲。

消えるアスペルガー症候群 米診断手引19年ぶり改訂で
このニュースをタイトルだけチラ見したとき,アスペルガー症候群(AS)が,独立した診断名ではなく,自閉症スペクトラム障害(ASD)にくくられるんだろうなと直感的に思いました。
なぜかというと,(私は自閉症分野をよく知っているわけではないですが)古くから典型的な「自閉症」とされてきたケースとASを分けるのは,ASは知能検査で測られる「知能」が平均程度かそれより高いこと,言葉の遅れがないということだからです。
ASが「障害」とされるのは,知能程度に関わらず「自閉症」的特徴のために生活上しばしば困難をきたすことがあるためですから,ASをASDにくくることは素直な分類だと思います(もちろん,ASDのサブタイプとしてASの名を残すことはあり)。
しかし,これに対してネガティブなニュアンスの記事を見つけたので?と思いました。

だが、米エール大の研究グループが、第4版でASと診断される人のデータを第5版で診断し直したところ、4分の3の人が、自閉症スペクトラム障害に該当しなくなった。
そのため、今後は同じような障害を抱えていても診断で除外され、コミュニケーション技術の支援教育などが受けられない可能性があるという。さらに、現在、ASと診断されている人の間でも、診断名がなくなることへの不安の声が出ている。

http://www.asahi.com/tech_science/update/0429/TKY201304290158.html

こういう文章を見ると,「診断名」がつく範囲が狭くなるため,結果として不利益をこうむるケースが出てくるのかと思ってしまいます。
しかし,そうではないという記事も見られます。
自閉症、アスペルガー・・・「ASD」に統合 米精神医学会、基準を改訂
この記事を見ると,今回の改訂は診断名がつく範囲を狭めるのではなく,「自閉症的特徴」を目指して「網をかける」ことにより,

「米国ではアスペルガーやPDDなど診断名の違いで、州によっては、早期療育や教育を受ける機会があったり、なかったりする。新基準では、いずれもASDの中に含まれ、サービスを受けられないことはない」とした。

http://qq.kumanichi.com/medical/2012/06/post-1971.php

以上のようなポジティブな影響がある可能性も示されています。
例えば,ASだと言葉の遅れがなくIQも平均かそれ以上ということで発達障害支援の網からもれてしまうことがあります。ASがASDとしてくくられるならば,そのような支援の網からもれることがなくなるはずです。
・・・と以上のように先日チラ見したニュースを探すきっかけになったのが以下のWeb記事です。
息子がASDと診断されると同時に自分もASDだったということが判明した父親による連載記事です。
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」
ご本人と息子さんだけでなく,今までの人生の中で出会ったASDと思われる人たちが何人も登場しますが,

それにしても、発達障害の症状の出かたは本当に多様である。そのくせ、Oさんの言動と僕の言動に重なるところが多いというのも皮肉なものだ。

ASDという「診断」にくくってもらったとしても,それは安住の地ではなく次のステージへの一歩に過ぎず,さらにそのステージはひとつの枠におさまらない個性的な「けもの道」ではないかと感じました。