lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

日本心理学会第76回大会2日目。

この日の午前は、自分が司会をつとめた「情報セキュリティ心理学」関連のWSでした。
”適切”なパスワード作成をさせることの難しさが改めて痛感される話題提供と、もっとシステム側の工夫や制約をかけることで改善できることはないかという指摘が印象に残りました。2つ目の情報セキュリティ研修に関する話題提供では、何が情報セキュリティ的に危険かを判断できるような見方を身につけさせることを目標とした、とありましたが、研修参加者はノウハウを求める傾向にあり、特に”情報””コンピュータ”とつくと難しいからよく分からないから手っ取り早い対策を教えてくれという姿勢がどうも感じられるような気がするな〜というのが、共有された印象でした。また、研修といっても、実のところ”タコ”なシステムの尻拭いをユーザにさせているのが現状ではないかという指摘も印象的でした。
お昼をはさんで午後も情報セキュリティ心理学」関連のWSで、こちらでは指定討論をつとめさせていただきました。
1つ目の話題提供は、PCの画面上に出てくる警告や通知などの「メッセージ」の読み取りについての興味深い実験でした。例えば、OS(Windows)のメッセージウインドウ内で「タブレット購入される方はケースも同時購入されると×円のお得です。」などと出てくると、「(今買い物してる)サイトからのメッセージのはずなのに、何でWindowsのメッセージウインドウで言ってくるの?」とびっくりすると思うのですが、どうも「ふつーの人」は、専らメッセージの内容のみに着目してその発信者が誰かを解釈し、それがどういうフォーマット(OSのメッセージウインドウか、ブラウザウインドウか)で出されているかは、発信者の同定には使っていないようだ、というアイディアから出た実験の報告でした。
要するに先方が悪意をもってメッセージを偽装した場合に気がつくことができるだろうか、というアイディアがベースにある実験であると理解しました。今までもやもやと感じていたことを可視化してくれるような実験でした。
2つ目の話題提供は、ソーシャルエンジニアリング研究へ心理学の知見を応用できないかということを目指したものでした。その中で、ソーシャルエンジニアリングに対応した研修は海外ではなされているが日本ではその例をきかない、とあったので、それはどうしてか、どのような背景が考えられるかと投げかけてみたところ、日本では組織マネジメントがきちんとできていないからかもしれない、という意見をいただきました。つまり、日本では社長を頂点とした垂直方向の命令系統のみで、横や斜めの組織がなっていない、というのです。社長に対してモノを言える立場の人間が会社にはいないので、組織(会社)の弱点を突かれるソーシャルエンジニアリングへの対応が及び腰になる・できない、ということなのかと思いました。
WS後、『行動意思決定論―経済行動の心理学』の著者の竹村先生にご挨拶して、本書の感想を述べさせていただくことができたのはよかったです。なかなかお会いできないので今回はよい機会でした。
続いて、夕方にはWS「職業意識と社会との接点の探究−キャリア形成とは「生き方を選び取る」こと−」に参加してみました。このテーマには全く不案内なのですが、現在の仕事との関連でちょっと拝聴してみました。
なかなか興味深い話題提供4件だったのですが、一抹の”むなしさ”のようなものも感じました。心理学では学生の側の”変容”に専ら焦点を当てる研究になりがちですが、学生の側が頑張って”変容”したとしても、社会情勢など外部環境の影響は非常に強く、その圧力の前にはちっぽけ過ぎてしまう気が・・・まあ個別的にみれば”変容”して羽ばたける事例もあるわけで、全くの無駄ではないとは思いますが、しかし・・・
このWSでは話題提供がてんこ盛りだった割には最後フロア交えての議論の時間もあり、そこで企業経験のある先生などがご発言されていました。
それを横から聞いていて感じたこと:

  • 企業経験のある先生のご意見と大学人のそれとはギャップがあることを痛感。
  • 大学人は入学させた学生をいかに企業に”押し込む”かということに意識がいっているように見えますが、企業の側はシビアで、基礎学力、または一定の地頭がある人間を優先的効率的に採用することを念頭に置いて動いているなと感じました(結果としての偏差値主義)。
  • 発言されていた企業経験のある先生は知り合いの先生だったので、後で個人的に少しお話ししたところ、センター試験から見直し大学に入る学生の基礎学力の担保をすべきである、ということをしきりにおっしゃっておられました。