lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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器用な野心家。

lionus2010-04-30

京都国立博物館で開催されている「没後400年 特別展覧会 長谷川等伯」に,昨日行ってきました。
過去の入館待ち時間の履歴を見ると,最大で150分待ちとかなので,祝日だと夕方でもキツいかなあ・・・と思いながら,17時過ぎに現地に着いたら,あっさりと10分待ちで入館できました。
館内はそれなりの混雑はありましたが,鑑賞に問題が出るほどではなく,館内を行ったり来たりして自分の観たいものに集中できて満足でした。大体1時間半強の滞在時間でした。
ところで,長谷川等伯の同時代の巨匠でライバルであった,2007年の狩野永徳展の時のような異様な熱気はなかったのはちょっと意外でしたね。
でも,元々絵師の名門家系に生まれた永徳に対し,長谷川等伯能登から絵師としてのキャリアを始めた「成り上がり」であり,作風および経歴の華麗さには永徳に負けるところがあるので,こんなものかもしれないと感じたり。
展示は,大体時系列で配列されていたので,長谷川等伯というひとりの絵師の経時的変遷がよく分かる体で楽しめました。

  1. 上洛前の能登では,クライエントの求めに応じて丁寧で綺麗な仕事=主に仏画を描く誠実で巧みなイラストレーター。
  2. 上洛してからは,上洛に関しお世話になった人達と親しく交わった証として肖像画を描いたり,名門狩野派の画風をはじめ様々な画風に学びそれを自らのものにする。
  3. 長谷川派一門なるものを盛り立てるべく,あれこれ政治的に動いて大きな仕事(=天下人秀吉の依頼)を獲得,やったぜ!
  4. 一世一代の大仕事を共に成し遂げ,跡継ぎとして期待していた愛息子に急逝され失意のどん底
  5. 晩年は水墨画で独自の新境地を拓き,傑作を残す。

一連の展示作品は,これが一人の画家によるものかと思うような画風の幅広さで,それは一人の人間のキャリアの波瀾万丈さと卓越した柔軟さ=器用さと,単なる器用さにとどまらない力強さと奥深さを見せつけられられた気がしました。
評価の高い晩年の水墨画も凄かったですが,夭逝した息子をはじめとする親族の供養も込めて描かれた仏涅槃図には圧倒されました。縦10m,横6mのサイズだそうですが,直面すると小学校とかの25mプールくらいの大きさはありそうな印象の画です。どうやってこんなものを人の手で描けるだろうと,直面してしばらく立ち尽くしてしまいました。
その迫力はすなわち,一時は抱いた野心の大きさと,それが挫かれた失意の大きさから来るのではないかと思いました。
同時に,晩年の水墨画の凄みは,失意の大きさと深さの反転作用かと思わせられるような気もしました。
絢爛豪華キラキラスターの狩野永徳もいいけれど,田舎っぺで器用で誠実で,でも挫折した野心家の長谷川等伯は味わい深いなあと思いました。