lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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数に強くなる(自分のものさしを作ろう。)

数に強くなる (岩波新書)

数に強くなる (岩波新書)

「数に強くなる」というタイトルから,計算に強くなるとか算数のやり直しとか想像してしまいそうですが,かなり違います。
数の話は沢山出てきますが,事象をよく観察し,自分なりの判断ができる「尺度」を持とうというのが本書の主張であろうと思いました。
ところで,この本だけでなく,畑村先生のご本は本当に読みやすいです。大事なことは表現を少しずつ変え繰り返し記述されているからかもしれません。難しい言葉(表現)も極力避けて,目の前で講義いただいているような錯覚に陥るくらいです。
さて,「数」について様々なエピソードや例により説明されていますが,中でも畑村先生が若い頃薫陶を受けたという,原安三郎氏(日本化薬会長・政財界の重鎮)とのエピソードが印象に残りました。

原さんと会って知ったのは、物事の先頭に立って動いている人は、「その場で作る」という動作をしていることである。本を読んで知ったり、人に聞いて覚えたりするのではなく、必要なことは何でも、自分が動いてその場で作る。そして、判断をするのである。
そして、ここでまたもや「数」なのである。たとえば、原さんは筆者と顔を合わせるや、こういう質問をした。
「あなたはこの部屋に来るまで、階段を何段登ってきましたか」
意外な質問だったが、筆者の頭はすぐに動き始めた。ここで、図17を見てほしい。部屋は2階にあった。中を見渡してみると、天井の高さは3メートルくらいに見える。ということは、地面から自分の足下までの高さは3メートルである。階段の段差が何センチなのかは知らないが、いくらなんでも10センチでは低すぎる。といって30センチなら、足を上げるのに難儀だろう。そこで、段差は20センチと仮に考えた。ならば、全部で15段である。
こういう推測と一緒に答えたところ、「合格」とのことだった。なぜかと言えば、数を使い、しっかりした根拠をもとに、近い答えを出したからだそうである。「知りません」「わかりません」は論外。何も考えずに当てずっぽうで答えたり、数で考えても答えが全然かけ離れていたら不合格とのことだった。
原さんは、正確な答えが言えるかどうかを見ていたのではない。ここが大事である。「作る」という動作ができるかどうかを見ていたのである。
「たとえ知らなくても、作る努力をしなくてはいけない。必要な数は、見たその場で作れなくてはならない」
原さんが筆者に教えてくれたのは、その大事さだった。

少しポイントは違いますが,似たようなエピソードが名探偵シャーロック・ホームズの『ボヘミアの醜聞』に出てきます。つい連想してしまいました。
(参考)http://homepage3.nifty.com/221b/study2.html
ホームズは相棒ワトソンに,自分たちが住んでいる2階の部屋に通じる階段は何段か尋ね,ワトソンが答えられないのに対し,人は物事を見ているようでさほど見てはいないことと,観察の大切さを語るのです。
はああああ・・・ワトソン同様,いやワトソン未満の凡人lionus”ぼんやり”猫には耳が痛い話ですわ・・・