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PTSD 医の診断と法の診断(はじめにA基準ありき。)

PTSD 医の診断と法の診断

PTSD 医の診断と法の診断

PTSDについて,タイトル通り,医学的な「診断」と法の「判断」の両面から扱った,興味深い本です。
(民事など法的判断が下される場で)PTSD診断の濫用がしばしばなされていること,およびPTSD概念の拡大解釈はPTSD概念そのものの否定につながることが,本書では繰り返し指摘されています。
臨床では,当事者の利益が第一ですから,極端なことをいえばどのような「診断名」をつけようが,結果的に本人の利益=治癒(寛解)につながるならば,All OKなのだと思います。
しかし,損害賠償など,法的判断に係わる局面では,体の傷とは違い目には見えない心の「傷(とそれによる障害)」=PTSDについての判断は厳密かつ慎重になされる必要があります。
本書は,医学と法学(法律)の専門家の共著である点で非常に興味深く読めました。
PTSDについて論じるときには,はじめにA基準=トラウマティックな出来事の存在,がありきで,それに引き続く症状の経過について判断することが必要であることを改めて考えさせられました。
PTSDの歴史や診断基準等についても堅実に押さえられている他,意外だったのは,心理テストの信頼性と妥当性についても言及されている章もあったり,なかなかの好著だと思います。