lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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寺田寅彦と地震予知(乱読がつながると楽しい。)

寺田寅彦と地震予知

寺田寅彦と地震予知

天災は忘れた頃にやって来る」というフレーズで有名な寺田寅彦についての評伝です。
名前は知っているけれど,どんな人物か全然知らなかったので,地震前後の発光現象や動物の異常行動などにも注目するなど,研究”界”の既成概念にとらわれず物事の本質を追究した研究の数々が提示されていて面白かったです。
個々の研究の説明もともかく,その研究を紹介することを通じて,著者は寺田寅彦という人間のすごさを記述しています。
あちこちツボるというかいい意味で引っかかる箇所が多く,メモを取りながら読みました。
あの関東大震災があった時代に生きていた人なので,災害についての記述は今でも考えさせられるものばかりです。
「何回洪水に流され,山崩れにあっても,すぐに過去の体験を忘れて同じ場所に集落をつくり,同じ災害に遭遇する」人間の「おろかさ」について:

あらゆる災難は一見不可抗的のようであるが実は人為的のもので,従って科学の力によって人為的にいくらでも軽減しうるものだという考えをもう一ぺんひっくり返して,結局災難は生じやすいのにそれが人為的であるがためにかえって人間というものを支配する不可抗な方則の支配を受けて不可抗なものであるという,奇妙な回りくどい結論に到達しなければならないことになるかもしれない。

人間は弱いもの,弱さゆえに人間であるということに通じるような気がしました。
長くもないし,表現そのものは平易なのですが,lionusには難しい文章だと思えます。
研究についての記述も,いちいち心にかかるものが多いです。以下はアマチュア研究家についての記述です。

新しい研究という事はいくらもできるが,しかしそれをするには現在の知識の終点をきわめた後でなければ,手が出せないという事をよくのみ込まさないと,従来の知識を無視してむやみに突飛な事を考えるような傾向を生ずる恐れがある。この種の人は正式の教育を受けない独創的気分の勝った人に往々見受ける事ではなはだ惜しむべき事である。

今の科学的な利器は単に独創的な素人の思いつきや苦心だけで完成するにはあまりに多くの専門的知識の素養を必要とする。

つまり,「基礎理論にしっかりしていなければ,真の独創は得られない。系統的な勉強なくしては,あまりにも迂路が多い。いまの学問は簡単に独創ができるには,あまりに多くの専門的知識の素養を必要とする」と寺田はつねに力説していたのであった。

「独創的」と「トンデモ」の区別がつかない人は,上述の「素人」だけでなく,大学のセンセイにも時々みられることがありますね。先行研究をみずに(調べようとせずに?あえて無視して?),独自のトンデモ研究をはじめる人が。ただ,素人と違って大学のセンセイの場合は,巻き込まれる学生が発生するので,非常に罪深いです。
こわいこわい。べんきょうしなきゃ!>じぶん
最終章は「経営のアポカリプス」というタイトルで,いきなり経営学寺田寅彦について著者(商学博士)が語り始めます。
関係がなさそうなこの二者をつなぐのは,「気象学」なのだそうです。
寺田寅彦は専門の物理学だけでなく気象学もよくしたそうで・・・

ちかごろ,米国で使われている経営学上の言葉に「気象学的判断力」というのがある。つまり気象学で要求されるような,既成の概念やでき合いの理論にとらわれないで,先入観ぬきで,自ら全くあたらしい問題を発見し,それに対して自主的な解決の糸口をみつけてゆく,弾力性のある問題発見型思考をいうのである。複雑このうえない気象状況の中から,法則性を導きだす創造的,弾力性のある判断力が経営面においても必要であるというわけである。

ふむふむ。経営学だけでなく心理学にも通じそうです。
勉強になるなあと読み進めていると,「情報」と「インテリジェンス」「データ」が分けて扱われている文章を見つけて,おおっと思いました。

事実の実績数字にどういうウエイトや価値意識を与えるかがリーダーの役目であり,これが行われてはじめて単なる数字が数値となる。単なる数字には情報は含まれていないが,それがいったん数値ということになれば,それには立派に情報とインテリジェンスがあるのだ。
この数値のなかには,かくされた先見的な問題がたくさん含まれていることを忘れてはならない。ちょうどアブリ出しのように,経営の数値から問題は自然と浮かびあがるのである。数値を読む能力が大切になってくる。単なる数字はコンピューターから出てくる。

以前読んだ以下の2冊が頭の中にひらめきました。ちなみに,この本も(読んだ後に日記記事にしていませんでしたが)大変おススメです。

インテリジェンス入門―利益を実現する知識の創造

インテリジェンス入門―利益を実現する知識の創造

インテリジェンスの歴史―水晶玉を覗こうとする者たち

インテリジェンスの歴史―水晶玉を覗こうとする者たち

インテリジェンスが出てきたら,「リクワイヤメント」*1が出てくるのではないかと思い読み進めていると,やっぱり出てきました。

これからの経営管理者も,つねに後進に問題を提示できるための勉強が要求される。現代はリクワイヤメントこそがリーダーシップであるからだ。requirementは他人に対しての要求と同時に,その裏打ちとして管理者その人に対する要求があることを銘記しなければならない。自他に対してrequirementできる人が真のリーダーとなるであろう。

あれこれ自分の中でつながることを見つけた瞬間の楽しさが,乱読を後押しするのかもしれません。

*1:インテリジェンスはリクワイヤメントなしでは発生しない;情報(インテリジェンスの方)はそれを求める人がいてはじめてインテリジェンスとなりうる。詳しくは上記1冊目を参照。