司法的同一性の誕生―市民社会における個体識別と登録(オイコラ警官。)
- 作者: 渡辺公三
- 出版社/メーカー: 言叢社
- 発売日: 2003/02
- メディア: 単行本
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友人のM氏に薦められて読んだのですが,内容も文章も難しい本でした。
ここでいう「司法的同一性」とは,犯罪者の確定された「身元」という意味でのアイデンティティーである。犯罪者の同一性は,犯罪者が誰であるかを,逃れようのない形で明らかにする。こうした身分確定の技術の必要性を痛切に感じたのは,19世紀後半,パリのような大都市で大量の軽犯罪者が発生し,彼らの身元が確定できず窮地に陥った警察であった。
「そいつ」が誰だか特定できないと,初犯なのか,再犯なのか,悪質な累犯なのか区別がつかず,”適切に”罰することができませんよね。誰だか分からないと”適切に”罰することができないというのは,とても新鮮な考えでした。
最近は随分「インターネットは(完全な)匿名ではない」ということが広まっていると思うのですが,某巨大匿名掲示板等でのやりとりを見ていると,匿名性が暴走を引き出すのは昔も今も変わらないな〜と思います。
ベルティヨンにより考案された身体各部の計測による方法から,ハーシェルによる指紋利用の発見,そして現在の生体認証技術まで,個人を特定するためいかに腐心してきたかの歴史が展開されています。
当初,技術的なところに注目して読みましたが,この本の意義は,近代社会における同一性(アイデンティティ)の問題を司法同一性という視点から論じているところにあります。紹介者のM氏とお話した際に改めて認識しました。そういう点で,非常に特異的な本だと思います。