lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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大平正芳―「戦後保守」とは何か(「含羞」は「がんしゅう」と読む。)

本日で2008年の授業仕事は終わりました。まだ試験監督など少し残っていますが,ひと区切りです。

大平正芳―「戦後保守」とは何か (中公新書)

大平正芳―「戦後保守」とは何か (中公新書)

麻生首相の、冬休みの一冊〜『──「戦後保守」とは何か』福永文夫著(評:近藤正高)【奨】日経ビジネスONLINE)を読んで,仕事終わりの気分転換に読んでみました。
上記記事によると,「昨年末、麻生首相は冬休みに読むため本書を買い求めたそう」です。
平氏吉田茂池田勇人に続く,「保守本流」に連なる政治家のひとりであると,(恥ずかしながら)本書を読み理解しましたが,麻生首相はよく知られている通り,吉田茂氏のお孫さんです。
lionusの頭の中では,大平正芳氏は「歴史上の人物」で,ほとんど予備知識なく読み始めましたが,大平氏の生育歴からキャリア形成,首相在任中に亡くなるまでの過程を,折々の日本の政治状況と併せてコンパクトに記述されており,興味深く読めました。
21世紀の現在から振り返っても,大平氏の唱えた「日本の総決算」なる日本の進むべき道は,非常に優れたものであったように思います。
また,本書で紹介されている大平氏独自の「哲学」に感銘を受けました。

「楕円の哲学」「永遠の今」
(中略)
大平にはものごとを考えるとき,互いに相反する二つの中心を対峙させ,両者が作り出す均衡のなかに調和を見つけようとする態度が終生一貫して見られる。
(中略)
治者と被治者との関係において,いずれにも偏することのない「中正」の立場を説いた。それはのちに「楕円の哲学」と呼ばれる大平の人生哲学・政治哲学の最初の吐露であった。この思索と行動の体系はまた,一面で機の熟するまで待つ,「待ちの政治」という彼の政治スタイルを生み出していく。
「楕円の哲学」が空間における調和の論理であるとすると,同時に大平が好んで用いた言葉「永遠の今」(eternal now)は,時間における調和の論理であった。
(中略)
思想・行動軸だけでなく,時間軸でも,大平は過去と未来の均衡のなかに調和を見出し,自らを「保守主義者」と位置づける。ここには単純な過去への回帰も,一足飛びの未来への憧憬もない。
(中略)
大平の思想と行動の体系は,歴史をタテ糸に哲学をヨコ糸とし,それが紡ぎ出す綾のなかから生み出されていった。

本書は新書ながら,多くの情報がコンパクトにまとめられているせいか,読むのに意外と時間がかかります。lionusも読了後時計を見たら,4時間ほど経っているのに気付き,え,こんなに長い間読んでたのかと思いました(まあそれは面白く一気に読めた証拠ではありますが)。
終章『「含羞」の保守政治家』がちょうど全体のまとめになっているように思いますので,終章にまず目を通し,また初めから読み進めるのもよいかもしれません。