lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

心の宇宙〈6〉脳の情報表現をみる(機能局在論へ一石を投じる。)

何カ月か前に読んでいたのですが,忙しかったので思い出して書いてみます。

心の宇宙〈6〉脳の情報表現をみる (学術選書)

心の宇宙〈6〉脳の情報表現をみる (学術選書)

脳の情報表現の実体を探す時,脳のどの部分が活動しているかという「機能局在」やその総体である「機能地図」を探すことと混同されることが多い。言うまでもなく,脳のどこが強く活動しているかということは,脳のどのあたりで情報が表現されているかを示しているにすぎず,情報の実体を明示しているわけではない。

心の実体を見るということは,脳のどこが活動するかを知ることではなく,脳の活動により表現される情報の実体を検出することであり,同時に脳が情報を表現する方法を知ることである。そして,脳の情報伝達と情報処理を担う存在が,ニューロンとそれが縦横無尽につながった神経回路網である以上,それらニューロンの活動を多数かつ同時に記録し解析することこそ,情報表現の実体を検出する唯一の方法である。

これだけだと,ある特定の行動をしている時,脳のある部位がアクティブになっている→××は脳の○○という部位で処理されているという,前半の引用部分のようなアプローチとどこが違うのかまだ分かりにくいですね。
読み進めていくと,各ニューロンの活動の相関を調べることにより,脳の情報表現の実体に迫ることができるのだという主張が出てきます。

情報表現を担う協調的なニューロン集団が,あらかじめ特定の構造的つながりを持っているとは考えられない。

機能局在論への意義申し立て。*1なぜなら・・・

どのような情報表現が必要となるかは,あらかじめ予測できないし,必要となってから構造を作っていてはとうてい間に合わないからである。そもそも,あらかじめ固定された構造的つながりにのみ基づいていては,自由で柔軟で迅速な情報表現は不可能である。

門外漢のlionus猫には,なかなか難しい本だったのですが,多少なりとも教育に関わる人間として,以下引用部分はずっしりと心に響きました。少し長くなりますが一部略しながら引用します。

最近,遺伝子の研究が進むにつれ,それが持つゲノムさえ全てわかれば,一般の動植物はもちろん,人間の性格や心の働き方も全てわかってしまうと誤解している人達も多い。(中略)しかし先に述べたように,ニューロンが作る回路網の接続箇所(シナプス)はゲノムが表現できる情報量よりも遥かに多い。すなわち多くのシナプスが,出生後にさらされるさまざまな外部環境や多彩な経験により作られ,全体の回路網が整備されていく。心を生み出す神経回路網の多くは経験と環境により作られるのであり,だからこそ,全ての人に良好な経験と質の高い教育の機会を均等に与えることが,何よりも重要なのである。*2

*1:もちろん,全否定ではありませんが

*2:太字はlionusによる。