lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

舞洲の涙と甲子園の涙。

南大阪 近大付、15年ぶり4回目の甲子園
PL1年4番・勧野は決勝で涙/南大阪大会
南大阪は近大付が延長サヨナラでPL下す
お天気がいいので,どこかに出かけようかなあ*1と思ったのですが,朝から暑くてうんざりしたので,クーラーの効いた涼しい部屋にこもり,採点作業(期限にはかなり余裕あり)をしながら,高校野球予選決勝(南大阪)をチラ見していました。
逆転に次ぐ逆転で,酷暑の午後に12回延長までもつれ込む暑い熱い試合で,ついPCを操作する手を止めTVに見入っていました。
現地では試合中風が強かったようで,延長に入ったあと,中継アナと解説者はフライ落球を案じていましたが(サヨナラがあり得る延長試合では,ひとつのミスが命取り),試合を決めたミスは,ボテボテゴロ捕球後の1塁悪送球でした。
2つ目の記事には,そのミスをした生徒が泣きながら崩れ落ちている姿と,対照的に喜ぶ近大付の生徒の写真があります。
ことによれば,3年間(正確には2年半)の努力の集大成が,たったひとつの悪送球で無に帰してしまったわけで,近大付ナインが疲れ果てつつも躍り上がって(嬉し泣きも一部あり)喜んでいる一方で,PLナインは肩を落とし悔し涙を流していました。
試合に負け,悔し涙を流すというのは,PLナインが出場したかった甲子園でも毎年(期間中は毎日)見られる光景ですが,この試合のPLナインの流した悔し涙と,甲子園の試合に負けて流すそれとは,決定的な違いがあるのではないかと思いました。
lionusはおよそ体育会系とは程遠い存在で,こういう団体競技スポーツの選手の気持ちは所詮分からないかもしれないので,あくまでも推測ですが。
今日の舞洲でのPLナインの涙には,カタルシスとかエクスタシーは無いんじゃないかと思うのです。
ただただ,今までの努力が無になってしまった,時間を巻き戻すことが出来るならそうして欲しいが,しかしそんなことは叶わない,惜別の涙。あるいは,負けないために自分はもっと何かできたんじゃないかという果てしなく自分を突き詰める後悔の涙。
甲子園で負けて流す涙には,確かに,もう甲子園では試合を続ける資格を失ってしまったという惜別の涙もあるでしょうし,また,あの時自分が塁に出ていたら,あの時自分がエラーをしなければ,というような自責と後悔の涙もあるでしょう。
その点では,舞洲(地方予選)での涙と共通点があると思います。
しかし,甲子園での涙は,(多くの場合)一生に一度といえるくらいの晴れ舞台で戦い,そして散った(負けた)という事実が前提にあることが大きな相違点です。
lionusはひねくれているので,甲子園行きが決まり喜ぶ近大付よりも,負けたPLナインの方につい目がいき,彼らがどのように振舞うのか,TVの画面に映る範囲で観ていたのですが,彼らは舞洲球場のグラウンドの土を持って帰るような行動はしていませんでした。
甲子園で負けたら,泣きながらグラウンドの土を手で集めて袋に入れて持ち帰る光景は毎度のものですよね。
このことから,夏の甲子園は,高校野球の聖地なのだということが,そこの土を持ち帰るという行為に象徴されていることが分かります。
でも,地方予選の決勝ではそのような行為はみられなかったのです。
また,今日の南大阪予選決勝で負けたPLナインは,今後の人生でしばらくの間は「オレはもうちょっとで甲子園に行けたんだ」とか言うかもしれませんが,成人になり社会人になり,そして家庭を持つような年齢になった頃には,遥かかなたの過去の記憶として,何かきっかけでもない限り,語りはしなくなるのではないかと思うのです。
一方,仮に初戦敗退であっても,甲子園に行けた場合は,機会があれば「自分は甲子園に行った」ということを語ることを忘れないような気がします。
冷静に考えると,甲子園に至るまでの予選での勝ち数という点では,近大付とPL学園では,たった1つの(シードなど考慮しなければ)差しかありません。もし,近大付が甲子園で初戦敗退という結果になれば,PL学園との”実力差”はほんの僅かであるといっても不適切ではないと思います。
そういうことを考えると,甲子園で負け,グラウンドの土を集めつつ流す涙は,悲しくて悔しいけれども,どこか甘美でエクスタシーをも感じさせるような涙ではないかと思ってしまうのです。
負けて流す涙が甘美でエクスタシーとは,潔く散る桜を愛でることに象徴されるような,純日本的な散り際の美学に通じるような気もしますし,また,甲子園という”女神”の袖に触れることができたという光栄を得た戦士としてのプライドが背景にあるのかもしれません。

*1:暇が出来たら行きたいところ候補が複数ある