lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

百葉箱はなぜ百葉箱というのか。

最近のリンク先にこんなのがちょこちょこと。
google:百葉箱 語源
google:百葉箱の語源
他にもYahoo!や「はてな」の検索から来られるケースも複数あります。
3月31日の日記のタイトル「百葉箱の語源を某フォーラムで知りました。」で引っかかっているのですね。
すみません。タイトルのみで肝心の語源そのものを書いていませんでした。
せっかくなので昔書いた文章を貼り付けておきます。

私の母校には百葉箱と呼ばれる白い箱があり、その当時から「葉っぱもないし、色も緑色ではないのになぜ百葉箱と呼ぶのだろう」と非常に疑問であった。今回はこの長い間の疑問を解くべく、「百葉箱」の語源を調べることにする。

そもそも百葉箱とは何か

「気象観測用の白ペンキ塗り鎧戸の箱。天井に通気筒を設けて通風をよくし、温度計・湿度計などを入れておき、気象要素を観測」するもの(広辞苑より引用)。小学校にあったのは、恐らく理科の学習のためと思われる。残念ながら私の場合一度も使ったことはないが。
広辞苑で調べて初めて気が付いたことがひとつある。
今まで、「ひゃくようばこ」と読んでいたが、広辞苑では「ひゃくようそう」という読みになっていた。どうやらこちらが正式な読み方のようだ。

百葉箱の名前の由来

塩田(1996)*1によれば、百葉箱の出自は、清代の「百葉窓」であると考えられるとしている。「百葉窓」とは、清朝離宮である円明園などにみられるもので、日本では「ガラリ」や、板簾(イタスダレ)と呼ばれるものと同様なものらしい。ちなみに「ガラリ」とは建築用語で羽板を取り付けた物、直射日光や雨を遮り空気を流通させるため、窓に間をすかして取り付けた幅の狭い薄板のことをいう。
つまり、百葉箱とは、通風をよくするための鎧戸風の部分の形が百葉窓に似ているところからきた名称らしい。
さらに塩田は、百葉という言葉は古い周の時代の牛・羊などの胃の壁からであり、以後これに類した花などに及び、そして百葉窓にも用いられた、という愛知大学の荒川清秀教授による指摘を紹介している。

「ひゃくようそう」か「ひゃくようばこ」か

塩田の論文や辞典類の記述を参照した限りでは、今のところ「ひゃくようばこ」と「ひゃくようそう」の両方の読みが混在している状態のようである。しかし、百葉箱の名前の由来が「百葉窓」なら、本来は「ひゃくようばこ」ではなく、「ひゃくようそう」と読まれるべきであろう。

百葉箱にも種類がある

気象科学事典(1998)*2によると、小型のスティーブンソン型、大型の気象庁1号、2号、3号型など、百葉箱にも種類があるらしい。

種類 特徴
ティーブンソン型、気象庁1号・2号型 側面がかたびらのような壁で、南北に扉があり、底面がすのこ張りとなっている。日射を防ぐため全体を白色ペンキで塗装してある。箱内には自記温度計、自記湿度計、通風乾湿計、最高・最低温度計を置く。外の空気は側面、底面から自然の通風によって出入りする。
気象庁3号型 側面が断熱材入りの二重壁で、天井にモーターファンがあり、底面から外気を強制的に吸入することが他と異なる。

上を見る限り、気象庁3号型のみ通気をモーターファンにより強制的に行うことから、「百葉箱」の語源となった「鎧戸」風側面がないようである。それでもやはり「百葉箱」と呼ぶことには変わりない。
ちなみに、気象庁では現在温度計、湿度計を百葉箱より日射の影響を受けにくい金属製のシェルター(通風筒)に収めて使用するようにしているそうで、長年気象庁のシンボルだった百葉箱は正式な観測には使われなくなっているという。

・・・と,以上のようにニフティのフォーラム経由で文献に辿り着き,長年の疑問が解けて嬉しかったので,ある時,lionus祖父に「百葉箱の語源って知ってる?」と(嬉しげに)尋ねてみたところ,「知っとるよ」といとも簡単に(そして完璧に)回答されてしまいました。
元・気象大隊lionus祖父恐るべし。*3

*1:塩田正平 1996 百葉箱の呼び名について 気象, 40(7), 7-11

*2:日本気象学会編 1998 気象科学事典 東京書籍

*3:階級は忘れましたが100名ほど部下がいたそうです。