lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

STSさんからの質問。

STSとは,speech therapist studentの略で,言語聴覚士課程の学生のことを指します。
1年ほど前に「心理測定法」の授業を担当したSTSさんから,国試の質問会をもちたいというお願いが先日ありました。lionusが出講する日の授業開始前に会を開くことにしました。
前もってクラス内でまとめた質問が送られてきたので,図書館に行って調べていました。
長文になりますが,他学校のSTSさんも参考になるでしょうから,以下に一部載せてみます。ただし,これに関する他学のSTSさんからのさらなる質問には答えられません(悪しからず)。*1しかし,間違いがあれば訂正意見いただければ幸いです。

第四回 午前 問題52 誤っている組み合わせはどれか。
1.再体制化…洞察による問題解決
2.遅延反応…シンボル過程による情報保持
3.概念達成…推理による概念の成立
4.習慣的構え…解法の機械的適用
5.逆転学習…心的回転による解の検索
◆解答が3と5に割れている

認知心理学学習心理学の分野からの出題で,lionusの担当分野ではありませんでしたが,それなりに理解可能。5が正答。逆転学習:今まで正反応とされたものが誤反応とされ、誤反応とされたものが正反応とされて訓練が続けられる場合の学習。

第四回 午前 問題60 行動療法について誤っているのはどれか。
1.トークンを強化子として用いる。
2.精神分裂病には禁忌である。
3.特殊教育でも用いられる。
4.強迫性障害にはフラッディング法が用いられる。
5.社会学学習理論はその一つである。
◆解答が4と2に割れている

精神分裂病には禁忌」なのは,精神分析的療法やintensiveな“カウンセリング(心理療法)”。よって,2が正答。統合失調症にともなう“問題行動”を改善するため,行動療法が使われることがある。フラッディング法は曝露療法のひとつで強迫性障害の行動療法の中で用いられる。

第六回 午前 問題 54 尺度に影響しないのはどれか。
1. 文脈効果
2. 係留効果
3. 刺激範囲
4. 刺激呈示順序
5. 刺激呈示回数
◆解答が2と解なしに割れている

全て尺度(刺激に対する人間の判断)に影響する可能性があるので,解なしが正答。
文脈効果:前後の刺激の影響を受けて判断対象の刺激についての知覚が変化する現象。例:一連の文章(メッセージ)として聞き取れた音声でも,特定の一部だけを取り出すとそれとは聞こえない可能性(連続音声から取り出した音韻は前後の文脈の影響を強く受けている)。
係留効果:直感的な推定をおこなうときに、目安となる値を決めてそこから調整することからくる効果。例:(本当は3万円貸して欲しいとしても)最初に「30万貸して」とふっかけておき,断られたら「じゃあ3万貸して」と頼む。最初にふっかけた「30万」が基準になるので最初から「3万」というよりは抵抗感が小さくなる。

第六回 午前 問題 64 正しいのはどれか。
1. 小学生では親友と普通の友人との区別がない。
2. 1〜2歳児は幼児に対して強い関心を示す。
3. 鬼ごっこごっこ遊びの一種である。
4. ギャングエイジとは青年期の友人関係をいう。
5. 幼児の人間関係では友人は重要ではない。
◆解答が3と2に割れている

生涯発達心理学分野からの出題。2が正答と推定される。3.は「鬼」になりきって追いかけるのではなく「鬼」と「追いかけられる者」という役割分担の遊びなので,ごっこ遊びとはいえないのでは。ゼロ歳〜6歳までの発達について簡潔にまとめてある「保育所保育指針」はお勧め(http://ba.boo.jp/hoikushishin/hoikuen/などネット上にいくつかある)。

第7回 午前 問題53 頻数データに適用できるのはどれか。
1. t検定
2. F検定
3. カイ二乗検定
4. 偏差積率相関係数
5. 重回帰分析
◆解答は3だが,「頻数データ」という用語が分からない

頻数=頻度=人数(データ数)。よって,頻数データとは,男が×人,女が○人など,各カテゴリーにあてはまる人数(データ数)を問題にしているデータ=名義尺度。この問題は「名義尺度データに適用できるのはどれか」という問いに読み替えることができる。
ところで,以前読んだ本ですが,

音の世界の心理学

音の世界の心理学

はまえがきに,

本書が対象としている読者は,学部ではじめて音についての心理学(音響心理学音楽心理学,聴覚心理学,心理言語学など)を学ぶ人たちから,すでに音についての研究を始めているが他の種類についての聴覚刺激についてもっと知りたいと考えている人たち,臨床現場で実際に音を使って実験を行いたいと考えている言語治療士や音楽療法士の方々,などである。

とあるように,STSさんにお勧めできる文献です。

*1:lionusがかつて担当したSTSさんに対しては,授業が終わった後でも幾分かの仕事上の責任をもつと考えるが,他学のSTSさんにはそのような責任を負わないという考えの上。