lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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情報処理の究極に挑む―脳を知り脳に迫る (ソフトテクノロジーシリーズ 対話 (10))/愛は脳を活性化する (岩波科学ライブラリー (42))(最初はイカでした。)

甘利俊一・松本元という二人の研究者の対談を収めた本です。
対談なので読みやすいかと思ったら,内容はかなりハードです。二人のえらい人がすんごく難しいことを談笑している場に同席して「よく分からないけれども何だかすごい」と面食らっている気分になれます。ぽんぽん出てくる専門用語には脚注がついているのですが,その脚注がまた難しいという。
しかし,最後の第五章「新たな科学技術体系の構築」での松本元先生の言葉に非常に感銘を受けました。全部は長いので一部だけかいつまんで引用してみます。

現代は科学技術の時代です。しかし,ここでの科学は死に物の論理の科学であり,死に物の科学に基づいた技術です。このような科学技術を,人間にとって善であるようにするためには,人間を知って(人間の科学を推進して),人に適合した技術にしなくてはなりません。

人間を科学的に理解することが,時代を切り拓くための基本である,と私は考えます。このために,われわれの研究が少しでもお役に立てれば,これほど幸福なことはありません。

熱いです。

愛は脳を活性化する (岩波科学ライブラリー (42))

愛は脳を活性化する (岩波科学ライブラリー (42))

怪しいタイトルですが,中身はものすごくまっとうです。名著です。ごく薄い本ですけれども,

本書は,光計測法による実験事実や脳型コンピュータの開発過程で得られた脳に関するさまざまな知見をふまえ,脳と心がどのようにとらえられるようになったのか,私なりの理解を記したものである。

と,いうように,理詰めで綿密なベースを辛抱強く積み上げた最後に,えいやっと思い切って美しい絵を描いたような素敵な本です。
「美しい絵」というのは,本のタイトルが示すところの考え(松本元先生なりの意見)です。

愛は人が成長する源であり,心の活性化エネルギーなのである。脳にとっての最大の価値,そして活性化のもとは,関係欲求の充足であり,それは愛という概念で表現されるものなのである。

なお,松本元先生は2003年3月にお亡くなりになっています。
松本元先生メモリアルサイト