lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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災害の襲うとき カタストロフィの精神医学

災害の襲うとき―カタストロフィの精神医学

災害の襲うとき―カタストロフィの精神医学

原書は1986年出版,邦訳は1989年に出ていますが,阪神淡路大震災直後の1995年2月20日に新装第1刷発行されています。
災害後の精神保健について日本語で読める本がまずなかったことから,書店で平積みになっていたのを覚えています(lionusもその時買いました)。
20年近くぶりかな?再読してみました。
うーん。今でも十分通用する名著。
災害の精神医学的・社会的インパクトについて”全部入り”な本です。
東日本大震災後につらつら考えていたことも,本書に既にその元型が示されているのに改めて驚きを感じます(一度は読んだことのある本なので無意識に自分の考えの方向が規定されているかもしれないですが)。
今日は広島の原爆の日ですし,「結び―人間とカタストロフィ」より以下引用しておきます。

pp.476-477 ヒロシマナガサキそして世界各地の戦争という名の災害から,人間が学びとったことは,「現実否認」を避け,「葛藤」を建設的に解消し,人間がもつ攻撃的なエネルギーを社会に役立つ方向へ,これらの災害についての認識と予防への方向へと向けるべく活用することである。個人と社会が災害について理解することが,人類を日常的に襲っているさまざまなカタストロフィへの人間的な関心と配慮の在り方の向上につながる。このような理解は,われわれの社会のための効果的で人間性を尊重した災害対策システムの体系づくりに役立つはずである。そして人間がカタストロフィと共存してゆくためには,家族と社会,愛と希望,かけがえのない生命の保全のための熱烈な営為など,人類がもつ貴重なものをさらに強め高めてゆかねばならない。

p.476 過去の災害体験の集積・統合と来たるべき災害への適応を集約する最大のテーマは,おそらく「希望」であろう。人間はより良きことを期待し,また少なくとも一時的には来たるべき災害の脅威や過去の災害の痛みを忘れていられるものだからこそ,未来に投資するのである。臆病よりもむしろ勇気,人間同士の思いやり,それに圧倒的なストレスから立ち直る力など,災害に対する人間の対応には力強いものがあるから,災害体験から学び得たことは,この希望をもつという能力を確実に強めてくれるに違いない。災害時に見られる個人と社会の愛他的な反応や,階級や人種の壁を越えた強烈な同情心は,確かに人類がもつ資質のうち最善なるもの,最強なるものを象徴している。それは未来への希望につながるものである。