サルなりに思い出す事など 神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々
サルなりに思い出す事など ―― 神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々
- 作者: ロバート・M・サポルスキー,大沢章子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2014/05/23
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (14件) を見る
ストレスの神経科学や動物の行動観察についての専門書ではありません。二十歳そこそこのアメリカ人がひとりでアフリカに渡って,いちからヒヒの群れの観察研究環境を構築していった苦労話*1,ヒヒの社会行動の面白さ,アフリカ諸文化との格闘,等々,盛り沢山です。
なお,ストレス研究とかヒヒの群れについてちらほら知れたこと:
- 群れの中での階層が低いオス*2ほどストレスレベルが高い
- 群れの中でのトップのオスは,攻撃性を高めるテストステロンが他のオスに比べて(常に)高い,ということはない;ただし,トップの座が争われている状況では,確かにその時点でトップのオスのテストステロンレベルは高くなっている
- 群れの中での階層が低いオスは,常にストレスレベルが高く,ストレスと病気との関係がみられる
- しかし,階層が低く常にストレスレベルの高い場合でも,社会的つながりを多くもつ場合はストレスと病気との関係は弱まる=緩和されているっぽい
- ヒヒのメスは生まれた群れから基本的に出ることはなく,また,母親の群れの中での地位を引き継ぐ=群れの中での地位は生まれつき,ということ
- ヒヒのオスは大人になりかけると,生まれた群れを出ていく;メスは生まれた群れを出ないため,近親交配を避けるという効用があるのだろう
- オスにとって魅力のある=自分の子どもを産ませたいメスとは:群れの中での地位が高い=栄養状態がよく健康で,生まれた子どもも無事に育つ可能性が高い*3,今までに子どもを育て上げた経験がある(よって若すぎるのもあまりよくない)こと
- 何かあったときに,オスが子どもを助けるのは,自分が父親だと確信できる場合のみ*4
*1:もちろん,ちゃんとした大学生として許可と資金を得て行っています。
*2:麻酔薬を仕込んだ吹き矢で眠らせて,血液を採取してストレスホルモンを調べる,という研究方法のため,妊娠や授乳をしているメスにはこの方法は使えず,よってオスのみ研究対象にした。
*3:地位の高いメスの子どもは他のヒヒからいじめられたりすることがないため
*4:発情期のメスはその期間複数のオスと交尾することがあるが,最も妊娠可能性が高いタイミングは外見やにおいなど明示的らしく,その時期に交尾したオスは”わかっている”らしい;あるいは発情期に接触したオスは自分だけと”わかっている”場合とか→こういうことが”わかる”というのは,ヒヒもかなり知能が高いと思った