lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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サイバー・クライム(おそロシア、そして中国。)

サイバー・クライム

サイバー・クライム

書名通りインターネットを使った犯罪について書かれたルポです。
「非凡な才能を持つネット・セキュリティの専門家」バーレット・ライアンが主人公のPART1と、「イギリスの国家ハイテク犯罪対策部(NHTCU)の捜査官」アンディ・クロッカーが主人公のPART2に分かれています。
ロシア・東欧圏にハッカーの犯罪集団がいるということは何となく知っていましたが、マフィアや警察(治安機関・政治家)とツーツーで、表向きはホスティングサービスなどインターネット関連の事業をしている企業(本書ではロシアン・ビジネス・ネットワーク:RBN)としてフツーに活動しているということは衝撃でした。
「ロシア・腐敗の構造」という節ではその構造について書かれています。

p.343
身元をほぼ特定されている容疑者たちが「国家公認」の犯罪組織で数百万ドルを稼ぎ出し、世界中の無数のコンピューターを乗っ取ってインターネットの世界を脅かしている。絶対に逮捕されないアル・カポネが何人もいるようなものだ。アンディはその事実に愕然とした。
なぜ彼らは、国家機関に守られるほどの特権を獲得できたのか。その背景には各国の政治的・経済的な事情や思惑がある。

p.343
ロシアや東欧諸国の多くはコンピューター関連の技術者の育成に力を入れているものの、この分野の雇用機会を十分に創出できていない。その一方で、脅迫行為や個人情報詐欺などを生業とするロシアや東欧のサイバー犯罪者は、一般に海外のユーザーや企業に狙いを付ける傾向がある。自国の中産階級にはまだクレジットカードが普及しておらず、うま味が少ないためだ。このような状況にアメリカからは批判の声も上がっているが、当の現地政府はまったくと言っていいほどサイバー・クライム対策に無頓着である。

pp.343-344
自国民が被害に遭うことが少ないので、彼らにとってハッカーは敵どころか、富の象徴として見えるのかもしれない。

p.344
こうした国々では政府や治安当局の汚職が絶えないという点もハッカーが増長する一因になっていることは間違いない。たとえばロシアでは、FBIに相当するロシア内務省などの捜査機関の幹部でも月給が数百ドル程度のため、役人が汚職に走る可能性が高くなってしまっている。

p.344
真に危惧すべきは、一部の共産圏の「国家」が、インターネットの隆盛と歩調を合わせるように、犯罪組織と手を組み始めたという点である。

pp.344-345
その理由を一言でいえば、利益がコストを上回るということに尽きる。民主主義体制が根付いていない国家では、政府の人間が犯罪組織と手を結ぶことはたやすい。旧ソビエト政府が関与したと見られる組織犯罪について調査を続け、その後、民間セキュリティ企業、クロール・アソシエイツのモスクワ支社長を務めたジョー・セリオは語る。
「犯罪組織、ビジネス業界、そして政府。ロシアではこの者が密接に絡み合っており、癒着構造を解消するのがもはや不可能な状態に見えた」

読み進めているうちに、中国もロシアと同じような状況なんじゃないの?と思っていたら、続いて中国もハッカーの活動を”監視”し、国に都合のよいものを”黙認””推奨”、”活用”しているかのような話が出てきます。
冷戦は終わっていないのだなあ。