lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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医学的根拠とは何か(EBMをわかっていませんでした。)

医学的根拠とは何か (岩波新書)

医学的根拠とは何か (岩波新書)

EBM(Evidence-based medicine)、訳して「根拠に基づいた医療」という言葉があちこちで使われ出してもうずいぶんたちますが、自分はその意味するところを全然わかっていなかったんだな、と痛感させられました。
著者の先生は、本書では医学者(医者)を「直感派、メカニズム派、数量化派」と3つに分類して論じておられます。直感派とは、経験から判断するやり方、メカニズム派とは動物実験や実験室実験で”確かめられた”ものを根拠にする派、そして数量化派とは患者(事例)を集計して統計的に結論を出すやり方です。

p.35
直観派,メカニズム派,数量化派,これら三つを互いに排他的であると見るのは誤りだろう。直観に基づいたアートである医学を科学化して一般法則(直前の例でいえば,ワクチンがどれだけ効くか)を求めるには,患者の観察結果を数量化(データ化)する必要がある。逆に言うと,記述し,数量化して分析し,一般法則として求めなければ,直観に基づいたアートとしての医学も職人芸の域を出ない。優れていることを検証もできないし,その理由を探っていくこともできない。外科の教授の手術がいくらうまくても,それをデータにして公開し一般法則を分析し言葉や数字でなぜうまくいくのかを探らなければ科学への道が開けないし,凡人はいつまでも優れた職人芸に追いつけず,技術が個人に留まる。ましてや離れた地域の医師はその成果を利用できない。

p.35
これはメカニズム研究でも同様だ。たとえ実験動物や試験管の中で完結する研究であっても,多数の観察結果を数量化して検証している。しかし人間への応用を考えるのであれば,結局は人のデータ,すなわち臨床データを数量的に分析しなければ,そのメカニズムが有効かどうかはわからない。

EBMとは、数量化派のやり方を指す言葉であるのに、自分は本書でいうメカニズム派とごっちゃにしていたように思います。
EBMという言葉は英語圏から輸入してきたが、その考え方、意図するところは全然展開されていないという怒りの書です。
なお、Amazonにとてもよくまとめられたレビューが投稿されました。「メカニズムにこだわって因果関係を認めない誤りの追及」(2013/12/24、多忙な暇人さんによる)というのがそれです。