lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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取調べ・自白・証言の心理学(被暗示性と迎合性、だけれども本人のそれらの特性を重視し過ぎることは禁物。)

取調べ・自白・証言の心理学

取調べ・自白・証言の心理学

なかなか分厚い本ですが、興味深い、貴重な研究本でした。
興味深く貴重とは、警察の取調べで、やってもいない犯罪を「自白」するなどの虚偽自白が起こる要因として、「被暗示性」と「迎合性」といった個人特性をあげ、それらを測定できる尺度を開発して実際に検討した研究が示されています。
読む前は、警察の取調べという非日常的(異常)な状況で個人特性を問題にするのは、どうなのかと思っていましたが、著者は個人の「被暗示性」と「迎合性」を重要視しながらも、その取調べ状況も考慮に入れてトータルで判断しなければならないということはちゃんと書かれていて、説得力のある内容でした。
その他、最終章の「要約と結論」では「取調べと自白についての警察官教育には改善しなければならないことが多々ある(p.447)」として、いくつかの指摘をあげた上で、

p.448
この章のはじめに、わたしは警察の取調べは技量であるよりは科学である方が望ましいと示唆しておいた。読者のなかには、なぜ技量ではなく科学なのかと問う人がいるであろう。実際に、なぜ取調べが技量のままであってはいけないのか、そして一体科学であることのどこが重要なのか?

と述べていることは考えさせられます。

p.448
結局のところ、過去において、警察の取調官の多くは、自白を獲得するうえで非常にうまく行っていた。警察官なら誰でも、どんなに頑強に抵抗する被疑者からでも自白を獲得するという噂の「タフな人気役者」の話しを聞いたことがあるだろう!

p.448
技量としての取調べの問題点は、それがプロ意識と客観性を弱めることである。警察組織としての成功を「人気役者」の個人的な資質に委ねるわけにはいかない。

p.448-449
実際のところ、良い実務とプロ意識は少数の「人気役者」によって進歩させられることは決してないのである。必要なのは理論と実務の相互作用であり、それは知識、客観性、仮説検証、訓練、品質管理評価そして調査に重点が置かれなければならない。その目標は、すべての警察官がこれらの諸基準を、訓練によって自分も達成できるとみなすことでなければならない。熟練した面接と適切な訓練に関する知識は、少数の年配の警察官だけのものであってはならない。

言うは易し行うは難しでは・・・
「名人芸」ではなく「標準化」するべきだ、という主張だと読んだのですが、現場では経験至上主義の文化が根強そうな気がするのでねえ・・・これは実際のところを知らないので単なる妄想かもしれませんが。