lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

イノシシと人間―共に生きる/猫になった山猫 改訂版(お盆あたりに気分転換に読んだ本2冊。)

イノシシと人間―共に生きる

イノシシと人間―共に生きる

複数の著者が学術的に迫っている部分もある読み応えのある本です。
lionus的に新鮮だったのは,野生のイノシシと家畜のブタは,実は遺伝子レベルでは差がなく,交雑可能であり,またその子も生殖可能=生き物として正常であるということ。人間が飼い慣らしているうちにイノシシはブタになる,つまり環境=後天的要因により持っていた形質が変容するということのようです。
以前,NHKのBSで見た番組(「キツネの家畜化」の研究)のことを思い出しました。
猫になった山猫 改訂版

猫になった山猫 改訂版

女性が授乳しているのは猫ではなく,ブタの子です。
カバーを取り除いて配架されている大学図書館で借り出し読んだので,本書のカバーにこの写真が使用されていることは,この記事を書く時に初めて知りました*1。前述のイノシシ本の次に読んだのですが偶然ですね。

人が自分の乳で野生のけものの子を育てる。それは野生のけものが人との絆をつくり家畜となる第一歩なのだ。

これに類することは前述のイノシシ本にもありました。
さて,本書は猫がいかにして人間と生活を共にする,あるいは人間の生活圏の周辺に”寄生”するに至ったか,特に日本における(イエ)猫についての研究書です。本書を図書館で見かけたとき,名字を見てピンと来た通り,主に犬の研究で著名な平岩米吉氏のお嬢さんでした。期待通り読み応えのある一冊でした。
猫の習性など,初めて知ることも多く興味深いことばかりでしたが,以下のくだりは衝撃的でした。

猫というものは姿は小さいけれど,いざというときはすさまじい力を出して暴れまわる。

私は猫たちを扱うようになってから,猫の体高が30センチくらいだからいいが,これが50センチだったらどうなるだろうと何度も思ったことがある。

戦後,一人で猫と住んでいたある女性が可愛がっていた猫を置いて,たまたま二,三泊の旅行に出かけることになった。彼女は食物も水も十分に置いて出たが,それでも心配で早々に帰ってきて猫がどんなによろこぶかと部屋のドアを開けると,電灯をつけるより先に猫が飛びかかってきた。猫は普段と違う思いもよらない孤独な状況の中で狂乱状態になっていて,愛する飼い主を自分に危害を加えるものととってしまっていたのだ。そして飼い主を襲い,ずたずたにして百針以上も縫うような傷を負わせた。飼い主は全身血にまみれて救急車で運び出された。
その後,飼い主を病院へ運んだ救急隊員が数名で何時間も猫を追い回して,やっと捕らえるという事件があった。猫は馴れていても小さな体でも,ある意味では猛獣なのである。

その後,この猫を飼い続けたのでしょうか。この百針以上も縫うような傷を負った女性は。
人間の尺度で動物を計ってはならないという教訓だと思いました。
飼い主の不在を猫がどう捉えるか,数日経ったら帰ってくるということを猫は理解できないであろうこと,そして猫にとってはとてつもなく永く不安な不在の後,帰宅してきた飼い主のことを何と認識するか=もしかして単なる恐怖刺激かもしれない可能性。

*1:カラー口絵にも同じ写真が掲載されていました。