lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

ipodで寺田寅彦の随筆を読む。

青空文庫で公開されている寺田寅彦の随筆をpdfにしてipodに入れて,隙間時間に読んでいます。
それぞれの作品はごく短いので,電車の待ち時間などにすぐ読めるのがよろしいです。
読んでいて気になった部分など:

魔術師でない限り、何もない真空からたとえ一片の浅草紙でも創造する事は出来そうに思われない。しかし紙の材料をもっと精選し、もっとよくこなし、もういっそうよく洗濯して、純白な平滑な、光沢があって堅実な紙に仕上げる事は出来るはずである。マッチのペーパーや活字の断片がそのままに眼につくうちはまだ改良の余地はある。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/42218_16351.html

思うにうっかり案内者などになるのは考えものである。黒谷や金閣寺の案内の小僧でも、始めてあの建築や古器物に接した時にはおそらくさまざまな深い感興に動かされたに相違ない。それが毎日同じ事を繰り返している間にあらゆる興味は蒸発してしまって、すっかり口上を暗記するころには、品物自身はもう頭の中から消えてなくなる。残るものはただ「言葉」だけになる。目はその言葉におおわれて「物」を見なくなる。そうして丹波(たんば)の山奥から出て来た観覧者の目に映るような美しい影像はもう再び認める時はなくなってしまう。これは実にその人にとっては取り返しのつかない損失でなければならない。
このような人は単に自分の担任の建築や美術品のみならず、他の同種のものに対しても無感覚になる恐れがある。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2444_10269.html