lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

精神医学から臨床哲学へ (シリーズ「自伝」my life my world)/生物学の夢を追い求めて (シリーズ「自伝」my life my world)(学者さんに特化した「私の履歴書」*1。)

研究者「知の履歴書」 シリーズ「自伝」刊行
 学術専門出版社のミネルヴァ書房京都市山科区)が、『シリーズ「自伝」 my life my world』の刊行を始めた。
 人文・社会科学から自然科学まで、各研究分野で日本を代表する学者たちが自らの人生と学問の軌跡をつづる企画。同社の杉田啓三社長は、自伝を「知の履歴書」と位置づけ、「素晴らしい文化を次世代に伝えたい」と願う。

http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20100517bk05.htm

この記事を読んで,待ち構えていたら図書館の新着図書コーナーに発見したので,早速既刊の2冊を読みました。

精神医学から臨床哲学へ (シリーズ「自伝」my life my world)

精神医学から臨床哲学へ (シリーズ「自伝」my life my world)

生物学の夢を追い求めて (シリーズ「自伝」my life my world)

生物学の夢を追い求めて (シリーズ「自伝」my life my world)

お二人の先生のご研究には詳しくありませんが,人の昔話を聴くのは好きなたちなので,そういう意味でご研究の内容がイマイチ分からなくても楽しく読めました。
木村敏先生のご本の中で,研究内容そのものというより,もっとメタな内容で印象に残った記述を,長くなりますが引用します。

(木村敏先生がかつてピアノを教わっていた同志社女子大学音楽科の中瀬古和先生のエピソード;太字はlionusによる)
先生がドイツへ留学してヒンデミットに入門されたときのこと,まず提出したのは日本古来の旋法を使った曲だったらしい。ところがヒンデミットはそれを聴いて,異国趣味で効果を狙うのは邪道だ西洋音楽の作曲を学びたいのなら,ハイドンの音楽を徹底的に勉強して,ハイドンの書き方で曲を書いてみなさい,と言ったそうである。この逸話は,のちに私が外国語で精神病理学の論文を書くことになったとき,自分自身に対する戒めとしてよみがえってきた。あとからも書くことになるだろうように,私がそこで試みたのは,日本的ないし東洋的な思考法や言語表現を導入することによって,従来の西欧中心的な精神病理学脱構築することだった。私の試みが西洋の同僚たちに単なる異国趣味やもの珍しさで受け入れられるのではなく,そこに真の意味での革新をもたらしうるためには,私もひとまずは徹底的に西欧的な思考に同化した上で自説を展開するのでなければならないと考えた。そんなことを考えているときにいつも念頭を離れなかったのが,中瀬古先生がヒンデミットから受けた忠告だった。

文化の違うところに”殴り込み”をかけるというのは勇ましいかもしれないが,そういうのは違うんじゃないか,野蛮で失礼なことではないかと最近常々思っています。

世界の精神病理学を満点の星座にたとえてみよう。だれとだれの立場が近いのか遠いのかで,いくつかのまとまった星座が描ける。それぞれの星座にはひときわ大きく輝く中心的な星があるだろう。私の書いている総説論文に顔を出す精神病理学者たちは,みな一等星以上の輝きをもっている。私も将来,どんなに小さくてもいい,せめて肉眼で見える程度の星として,どこかの星座のどこか決まった場所に居場所をもちたい,星を眺めるのが好きな人たちから,キムラという名前の星はあそこにある,と言ってもらえるように……

先生が華麗な一等星になられたことには異論はないでしょうが,そもそも思わないと叶わないものなんだろうな〜思わなければ形にならないんだろうな〜そうか,星座に例える発想か〜と妙にしみじみしてしまいました。