日本帝国陸軍と精神障害兵士(膨大な資料の海からの労作。)
- 作者: 清水寛
- 出版社/メーカー: 不二出版
- 発売日: 2006/12
- メディア: 単行本
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PTSDは海外からの輸入概念ですが,1995年あるいは1992年以前にも,戦争神経症としてPTSD概念に着目していた研究は散発的にはあったのです。ただ,それが広く着目されるだけの「きっかけ・事件」に欠けていたのだと思います。*1
本書は,ほとんど系統的に研究されてこなかった,日本の旧陸軍・海軍における精神障害を発症した兵士についての研究書です。
「精神障害兵士」とあるので,lionusは「戦争神経症」を想起して手に取ったのですが,本書では当該障害兵士だけでなく,戦況の悪化により従来は徴兵されなかったような「弱兵」・・・身体的にだけでなく,いわゆる知的障害者も徴兵され,厳しい軍隊生活に適応できず,「精神に異常をきたした」として後送されるケースが多々あったことを初めて知りました。
本書では精神障害兵士について研究する理由のひとつとして,国家の戦争責任についても言及しています。国により「徴兵」され,軍隊生活・戦地での過酷な体験といった強いストレスにより精神障害を発症したとみなされるケースが多数であったと(全陸軍の精神障害兵士の診療と研究を行う「特殊病院」であった国府台陸軍病院の「病床記録」から)推測されるにも関わらず,精神障害兵士のほとんどは徴兵前から「病気」であったとされ,今の「病気」も元からのもので徴兵後の体験によるものではない,と国による責任をキャンセルした体になっていることが本書を読むと分かります。
20年あまりの研究による労作で,研究書として貴重なデータ満載で読みごたえがありました。
*1:もちろん,理由はこれだけではないと思いますが・・・今のlionusにはあれこれ思うところはあるものの,まだうまくまとめられません。