lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

こわい話(長文注意)。

これはちょっと毒があるというか,lionusにとっては背筋の冷たい思いをしたお話です。
少々設定は変えてあり全くの事実というわけではありません。
指導教授が退官する数年前のことです。以前マスターを修了された社会人の先輩が,遠路はるばる指導教授のもとへやって来られました。久しぶりで珍しいお客さまなので,個人研究室ではなく,こ洒落た喫茶店でお茶会となりました。
今度は博士号をとりたいので,ドクターコースに入りたいというのが,この社会人先輩の来訪理由でした。
その話を切り出された時の指導教授の「空気」から,lionusは直感的に「あ,断りたいんだな」と思いました。しかし,指導教授はさすが精神科医というべきか,喋っている内容に関係なく表情が変わらない,まるで「柔和な鉄面皮」*1とでも呼べそうな人で,この時も全くおっとりした,いつもと変わらない表情で話を聞いておられました。

社会人先輩:・・・ということで,今度ドクターコースの試験を受験させていただきたいのですが,いかがでしょうか。
指導教授:そうですね。でもね,僕はあと×年でもう出ていってしまうからね。僕のゼミでは無理かもしれないですね。
社会人先輩:それでは,(同専攻の)○○先生(のゼミ)ではいかがでしょうか?お願いできませんでしょうか。
指導教授:しかし,ドクターやとマスターと違って,3年行かないといけないし,僕と違って○○先生は真面目やから遠くからでもちゃんとまめに出席しないと認めてもらえないのではないですかね。
社会人先輩:はい,いえ,でも,私頑張ります!
指導教授:熱心ですね。ところで,論文博士というのはご存知ですか。
社会人先輩:いいえ。何でしょうそれは。それも博士号なのですか?
指導教授:そう。ドクターコースに行かなくても取れる博士号です。
(社会人先輩身を乗り出す)
指導教授:本を書いてね,それを大学に「どうだー!これで博士号を出せー!」といって提出したら取れるのがあるんですよ。そうね,まああまり薄い本では格好がつかないから,分厚い方がいいね。どうです,○×さんなら書けるでしょう。
社会人先輩:いやぁ,書けるかどうか分からないですけれども・・・本を出せばいいんですか。そんなのがあるとは知りませんでした・・・
指導教授:そうそう。まずは本を書いたらどうですか。
社会人先輩:はい。では,書けたら先生のところに持ってきたらよろしいですね!
指導教授:うん。まあ,それでもいいけれども,その時にはもう僕は(この大学には)居らないかもしれないし,それに遠いからまた来るのは大変でしょう。別に出すのは大学であればいいのだから,そう,あなたの近所の△大でもいいと思うけれどもね。
社会人先輩:そうなんですか,なるほど・・・分かりました,ありがとうございます!

社会人先輩は心強く感じられた様子で帰って行かれましたが,傍でずっと聞いていたlionusは,一見受け入れているようにみえて実は断固としたrejectionに恐怖しました。
lionusも,実は励まされているようでそうではないことが多々あるのではないかと。
でも,それに気がつかなかったらそれはそれで「幸せ」なのかもしれないし,それに気がつかないこと自体が自分の至らなさ加減を示しているのだから,いずれにしても自業自得だ,と思ったりもします。

*1:よって実はかなり短気で気性が激しいところがおありなのですが,一般的には”癒し系”で通っているようです。