lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

「超」進学校 開成・灘の卒業生─その教育は仕事に活きるか

新着図書の棚で見かけて、あ、この人『検証・学歴の効用』(読もうと思って忘れてた)の著者だったはず、と手にとって著者プロフィールを見ると「東京大学」「教育社会学」のキーワードが見え、なら実証データ分析かな?とぱらぱらめくってみたらそのようだったので、このようななかなか刺激的なテーマをどのように料理しているのかの興味から読んでみました。
調査内容のねらいや分析結果の解釈など、ごちゃごちゃ御託を並べず率直にすぱっと書かれているので、サラサラと読めました。
けれども、開成・灘の卒業生合わせて1000名あまり、対照として一般大卒者(首都圏の高校卒・正規で働く男性)1000名あまりのアンケートで、サンプル数も、項目数(内容)もボリュームがあり、分析にはかなり骨が折れたのではないかと推察申し上げます。
よくこれだけすぱっと纏め上げられ読みやすい新書にされたものだと、心から尊敬申し上げます。
個人的には、本書はさまざまな読み方ができたのですが、一般的には、大きく二つの面から読めそうです。

  • 開成・灘=ガリ勉君が社会に出てどれだけのことができるのかいな?という懐疑的な見方への反論

p.207
まず、超進学校卒業生に対する誤解に近い認識を見直す必要性がある。「人間関係が不得手」や「頭でっかち」「打たれ弱い」といった卒業生たちに対する否定的なイメージは明らかに卒業生たちの平均像と距離があった。こうした誤解が日常的に語られているからこそ、さまざまな歪みが生じているのではないだろうか。
そもそも日本人は、超進学校に対してのみならず、「学歴」というものに対して妙にかまえるところがある。「受験に勝った者が、実力ある者とは限らない」というフレーズが囁かれるなかで、学歴の効用を冷静に判断しようという動きが強まることはほとんどなかった(拙著『検証・学歴の効用』勁草書房、2013)。まっさらな目で、そしてキャリア全体を見通したとき、超進学校卒業生はどのように評価されるのか。これからの社会で希求される人材ではないのか。理解を再構築する必要があると考えられる。

  • 学校の勉強は実社会では(あんまり)役に立たない・関係ないという言説への反論

pp.105-106
大学に近い環境で仕事をしていると、大学教育で扱っている知と実践の場で必要とする知が異なっているという指摘をよく耳にする。職業教育に特化した内容を提供するよう、大学は変わるべきだという意見が寄せられることも多い。「学問は役に立たないもの」。多くの人がそのように捉えている。
しかし、本当にそうだろうか。そもそも学問というのは、さまざまな謎や問題を解くために人類が築き上げてきたものである。そしてその謎や問題は、この社会、この世界があるからこそ生まれたものである。
言葉や数字の遊びをしているわけではない。学問のために学問があるわけでもない。効率的な配分や貧困の問題などを扱う経済学。法律や制度がどのような影響を与えるのかを考える法学。人びとの心理や文化について多くを教えてくれる文学。常識を覆すようなものの見方を提示する社会学。環境の変化を受けながら、必要な技術を生み出していく工学。自然の姿を解き明かす理学。病の治癒や軽減化を追及する薬学と医学―このような学問に関心を持つことが、社会の理解を深め、新たな価値を生み出すことにつながっていく。十分にあり得る因果ではなかろうか。

この著者には、この「超」進学校の女子校バージョンの調査研究を強く強く期待します。
lionusの非常勤先のとなりに、「超」進学校レベルの女子中高があり、非常勤先の居室からはその学校のグラウンドがよく見え、先日も中高合同?でいくつかの組(赤とか青とか)に分かれて体育祭をしている様子が見えました。
あっ、と思ったのは、女子が「騎馬戦」をしているのです。
lionusのいた共学の公立高校でも体育祭では「騎馬戦」はありましたが、それは男子のみでした。
女子校ではそもそも女子ばかりですから男子だから女子だからという区別には出会いません(少なくとも校内では)。
だからガチで取っ組み合いの騎馬戦をするなど、”男子の目”を気にせず全力で何かをすることができるのでしょう。
そういった環境で育った女子が大学に入って”男子の目”を気にする状況になった場合・・・男子校育ちの男子とはまた別の、いやもっとしんどい目に遭うのではないかと思うのです。
例えば、東大女子は恋愛対象になりにくい、とか・・・所謂お嬢様女子大の子の方が、(東大男子も含めて)幅広い層からモテる(笑)可能性が高いのではないでしょうか。
そういう感じのことです。
そういう、女子校を出てからの世界で、見えない壁に出会ってわざと力をセーブするとかの諸現象についてさくっと分析しちゃってくれないかなあと思いました。