lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

授業資料を作成する感覚で本を出す。

MyISBNというサービスを使って、自分が担当する情報リテラシー系の教科書を2冊”出版”しました。
先の年末から2月半ばまで原稿を作成、1冊は原稿とりかかりから1カ月程度でリリース、2冊目も大体そんな感じで2月29日リリース予定です。
”出版”と引用符付きで記したのは、従来型の一般的な出版社を通しての形ではなく、インターネットを活用したインディーズ的な形態でのリリースだからです。
詳しくは上記サイトをご覧いただければと思いますが、利用者=筆者から見た特徴(利点)としては以下のような感じです。

  • 初期費用が極めて安価。1冊出すのに税込5000円ちょっとくらい。例えば大学の教科書を出そうとすると筆者の持ち出しで最安レベルでも30万くらいかかるケースが多いようです(ネット上で確認した範囲では)。
  • 自分で手売りする必要がない。Amazonのプリントオンデマンド(Amazonが注文を受けオンデマンドで印刷し、送ってくれる)利用なので。
  • れっきとしたISBNが付いているので、Amazon購入でなくても一般の書店を通じての取り寄せも可。大学教科書として生協書籍部でどのような扱いをされるのかは今回やってみないと具体的には分からないですが、ともかくISBNは付いているものだし、MyISBNの会社は書店との直取引もしているっぽいことがサイトからうかがえたので、少なくとも学生がAmazonで(アカウントを作って)直接買わなければいけない、という事態にはならないでしょう〜

ただし、編集、デザイン、カバー作成*1まで全て自己責任(そのまま印刷してOKな原稿をpdfで入稿しないといけない)で、先方の校正サービスも、そしてこちらの校正作業(出来上がりイメージの事前チェック)もなしで、一発本番なので、なかなか大変です。
1冊目は、初版がMyISBNの審査(あくまでも印刷トラブルが起こらないか等形式上のものにとどまるようです)からAmazonの審査を通ってリリース直前に、内容に誤りがあることに気がつき、修正のための追加料金を払って第2版を出したという失敗がありました。まあ初版が世に出る前にストップできたのはよかったですが。
いずれにしても自分で何もかもやるから安いし出版までスピーディー、ということです*2
印刷品質については、プロではないのできちんとした評価はできませんが、自分用にAmazonで購入した実物を見る限り、PC画面キャプチャ図など、フツーのレーザープリンターで出力するよりも全然綺麗です。本文はモノクロ限定ですが、表紙はフルカラー可で、表面つるつる加工されたしっかりした厚手の紙で、ペーパーバックとしては上等な方ではないでしょうか。そんなに安っぽい感じは受けませんでした。

・・・今回自分で教科書を書いて出そうと思ったのは、世の中には沢山いい教科書があることは承知しておりますが、自分の計画している授業内容にほぼフィットしたものはまずなくて、また、それなりに気に行ったものがあるとしても1冊2000円くらいだったり*3、また値段が1500円くらいまでに収まっていたとしても、自分の授業ではその4割とかせいぜい6割くらいしかその内容を使わず、扱いたいことの残りは動画教材を自作して授業している、という状況に疲れたのです。

さて来年度の教科書どうしようか、と思っていたときに、以前、『火山と地震の国に暮らす』(鎌田浩毅)を読んで、大学の授業用に自分で教科書として新書1冊を書くというアイディアにピコーンときたことを思い出しました。要するにアカデミックに網羅的な本を教科書指定した上に補足資料をあれこれ加えて授業をするよりも、そもそも自分が授業でやりたいことを本にまとめて教科書にしたらいいじゃん!ということと拝見しました。
自分で教科書を書いたらいいじゃん!ということについては、実はMyISBNでかなり早いうちから活用事例があります。

―MyISBNで書籍を作るに至ったきっかけはなんだったのでしょうか?
「電波、通信に関する法規」の講義を行う中で、教科書選定に苦労したところから始まります。現在、私の授業を履修している学生数は、120名ほどおります。
当初は、前任の先生が指定されていた書籍を教科書としておりましたが、本講で使うには「高級」過ぎる内容でした。また価格も高く(4000円弱)候補に挙がった別の書籍(これは2000円強)も内容補足の必要があり、別途プリントを何十部も準備し都度配布する必要がありました。さらに、法改正がある度に書籍が改訂されるという問題点もありました。
「教科書を執筆してみたらどうか」と声を掛けていただき、講義用の教科書を制作することも検討し始めました。けれど、出版にかかる費用は一般的に100万円程度から、前述の某公立大学の出版局でも50万程度は必要とのこと……教科書として一定の部数の需要は見込めるものの、法改正があれば改訂は必至ですし、果たして「償却」できるものか、という点は書籍発行の決断に対し大きな壁でありました。
―なぜMyISBNを選んだのでしょうか。
プリントを配布してなんとか講義をしのぐ年が重なり、このあたりから自分の授業で使う書籍は自分で準備せざるをえないのではないか、という思いが強くなりました。

http://oitt.jp/it/20130809/myisbn

自分のやりたいこと100%の教科書を来学期から使うことにはなりますが、従来からのオリジナル動画教材の作成と利用は続けるつもりです。紙と動画、それぞれいいところ(紙は一覧性、ランダムアクセス性が優れているし、動画は直観的に操作が理解しやすいと思う)があると思っているからです。

*1:カバーデザイン作成サービスは別料金であります。

*2:Amazonのプリントオンデマンドを使った出版は別のメジャー系出版社でもやっているみたいですが、こちらは編集作業を出版社が行うためその分の料金と、そして最低*冊印刷買取りという形なので従来型の自費出版とほとんど変わらないイメージを受けました。

*3:自分が学生だった頃に比べて最近の学生はお金がないのかな〜と思うことが多くて気になります。まあ、スマホ代で1万円くらいかかるとすれば、そりゃあ昔の学生よりは自由になるお金も少なくなるのも当然でしょうね〜