lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

内部統制の法的研究

内部統制の法的研究

内部統制の法的研究

過去に読んだ本でしばしば文献として見かけてきたので,手に取ってみました。
複数の論文をまとめた内容ですが,米国の内部統制規定の法定の歴史が詳しくまとめられていて非常に堅実な印象を受けました。
最終章で「米国法からの示唆と日本法の課題」についての考察がなされているのも特徴です。

p.379
学説では,内部統制構築義務の主体について,経営者と取締役会のいずれに属するのか見解が分かれている。この点,米国の取締役会は経営監督機関として位置づけられているため,業務執行の一部である内部統制構築維持義務は,明確に上級役員に属するものと位置づけられているが,わが国においても,業務執行を担当する取締役または執行役は業務執行の一環として,内部統制システムの基本方針原案を取締役会に提出させ,この方針の策定について取締役会が監督機関として関与するという構造が確認されるべきであり,業務執行を担当する取締役または執行役が,内部統制構築義務を負うものと解すべきである。

p.379
もっとも,構築義務の対象となる内部統制の具体的内容については必ずしも明らかではない。もとより,「リスク管理体制」の構築義務を内部統制システム構築義務と同義と捉える見解もみられるが,そこでは,内部統制構築・維持義務の目的は,「健全な会社運営」の確保に主眼があり,財務報告の信頼性ないし公正な情報開示のための内部統制システム構築という視点は前面にでているようには思われない。しかし,今回の米国企業改革法において新たに導入された「開示統制・手続」構築・維持義務については,あくまで証券市場における適時かつ公正な情報開示を通じた証券市場の公正性の確保という法目的に依拠したものである点こそが最大の意義を有するといってよい。

p.380
したがって,こうした経営者の内部統制構築義務の法的根拠を考える場合に,わが国においては,会社法証券取引法を分断したまま,会社法プロパーの問題として位置づけられるべきではなく,証券市場における情報開示の質的向上に貢献するガバナンス・システムの充実という視点から,公開株式会社における代表取締役などの業務執行を担当する取締役または執行役の善管注意義務の内容として再構成する必要があるものと考える。

米国では「会社は株主のもの」という考えを(基本的に)とっている結果,「証券市場における適時かつ公正な情報開示を通じた証券市場の公正性の確保」のために経営者は内部統制システムを構築しなきゃ,という流れで一貫していることが本書を通読してよく分かりました。しかし,日本ではそのあたり実情からするとどうなんだろう,”日本的”な会社について,一般的に言われている通り「株主のもの」とスパッと言い切れるのだろうか・・・本当は「会社は誰のもの」なんだろう,と改めて考えてしまいます。