lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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企業事故の発生メカニズム(「意図せざる結果アプローチ」という前向き追求。)

企業事故の発生メカニズム

企業事故の発生メカニズム

以下に述べたような「なぜ、当事者が(それで)安全だと考えたのか」と問いかける「意図せざる結果アプローチ」に基づいて、雪印乳業集団食中毒事件の事例分析を行い、「手続きが通用するための前提(必要な条件)を忘却し、いかなる状況においても、その手続きが通用すると認識する」、「手続きの神話化」が問題の焦点であると指摘しています。

p.79
先行研究の多くは、「なぜ事故が引き起こされたのか」という問いを立てて企業事故の分析を試みている。しかし、この問いは事故が引き起こされたことを前提としており、回顧的アプローチによる分析が採用されてしまう。しかし、事故を防止するために必要な作業は、上記先行研究で行われているような傍観者の視点から当事者の行動を理想状態の行動と比較して検討することだけではなく、当事者の意図と実際の行動との関係を当事者の視点で読み解くことも必要である。当事者は事故が発生することを知らない。そして、我々も明日事故が発生することを知らないのである。

pp.79-80
当事者の視点をとるためには、問いを設定し直す必要がある。具体的には、問いを「なぜ、事故が引き起こされたのか」ではなく、「なぜ、当事者が安全だと考えたのか」に変更する必要がある。この問いに基づく分析は、回顧的アプローチをとった場合とは異なり、理想状態との比較にはならない。

この「回顧的アプローチ」は2月12日記事の『「信じられないミス」はなぜ起こる―ヒューマン・ファクターの分析』で提示されていた、「ヒューマン・ファクターの連鎖」という考え方と似ているなと思いました。
要するに、「どうしてこうなった」と、事故や失敗から時間的にさかのぼって原因追究するのではなく、当事者の身になって時間軸に沿って順行しながら、どうしてこのときこうしたのか、選択肢の連鎖を検討するということです。
筆者は雪印乳業集団食中毒事件の関係者インタビューの分析から「手続きの神話化」という考え方を提唱していますが、そのもととなった事例データについての記述が非常に少ないのは物足りなかったのが残念です。