lionusの日記(旧はてなダイアリー)

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コンプライアンスの理論と実践(経験者ならではの苦労がしのばれるコンプライアンス本。)

コンプライアンスの理論と実践

コンプライアンスの理論と実践

読む前は、コンプライアンスの「理論と実践」についての一般的な概説書かと思っていたのですが、いい意味でその予想を裏切る本でした。
著者の先生は、企業のコンプライアンス部門の責任者という実務家であるだけでなく、かつて所属していた組織で不祥事が起こり、その対応と回復のために「事務方の中心」として働いた経験のある方です。また、社会人大学院生として研究を積まれてもおられ、本書は実務と研究、両面から書かれたオリジナリティのある専門書だとお見受けしました。
専門書らしく記述は普通に「冷静」なのですが、その中でところどころ、当時のご苦労をしのばれるような記述が散見されます。

p.23
コンプライアンスを重視する組織文化に向けて「革新」を進める場合には,利益優先の組織文化も含めて,どんな組織文化であっても,慣れ親しんだ組織文化を急激に変えることに対する組織成員の「抵抗・混乱・対立」などが必ず発生することを前提とするべきである。特に,従前の組織文化の中で認められ,相対的に有利に仕事を進めてきた人々の抵抗は,ひとしお大きいと思われる。経営幹部の地位にある人々は,これまでの組織文化の中で成功し,認められたからこそ昇進してきたのである。彼(女)らはすなわち,これまでの組織文化の体現者であり,組織文化への適合力がパワー資源(他へ影響力を行使する源泉)になっている面がある。その意味で,革新により自らの精神的存在基盤やパワー資源を否定されたと感じる度合いは,経営幹部の方が一般従業員以上に強いといえる。

経営幹部(企業トップ)が実は最大の「抵抗勢力」という指摘は興味深かったです。
コンプライアンスを推進するためには、組織文化の革新が必要であり、そしてその革新するべき企業文化の「体現者」である企業トップの意識を変える(変わってもらう)ことが最も重要であるということです。