lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

ヒトはなぜ拍手をするのか―動物行動学から見た人間(私も同じ疑問を持っていた。)

ヒトはなぜ拍手をするのか―動物行動学から見た人間 (新潮選書)

ヒトはなぜ拍手をするのか―動物行動学から見た人間 (新潮選書)

最近好んで読んでいるコバヤシ先生が、人間の行動について動物行動学的な視点から論じておられる本です。
「先生!」シリーズよりも、ちょっとカタい書き方になってはいますが、非常に読みやすいです。
本書を読むきっかけは、OPAC上で見た目次に

並んで歩くカップルは、なぜ女性が左側になることが多いのか?

を見つけたからです。
何年か前、福岡に日心学会で行ったとき、天神のカフェで通りをぼーっと眺めていたら、男女の二人連れは、進行方向向かって女性が左、男性が右で歩いている割合が圧倒的に高いことに気がつき、30分間、正の字を書きカウントしてしまったことがあります(結果は8:2くらいだったかな?)。
先生はこの問題についてどのように書かれているのか、知りたくて読みました。

女性左・男性右という並び方は、本来女性が利き腕(多くは右手)で男性の腕に触れ、「私をリードして」という意図を示そうとする心理から生じているのではないか

うん。私も当時同じように考えました。
しかし、その「心理」なるものがなぜ生じるのか、ということの理屈が立てられないのでもやもやしていたのです。
とりあえず、先生は、

オスがメスに対して、「親が子どもを保護して導くような行動」を行うことが、つがいの繋がりの形成や強化には効果的なのである。なにせ、親と子の間の相互作用では、攻撃的な感情は抑えられて親和的な感情が高まっており、それはつがいの雌雄間にもってこいの心理状態である。

と、言っておられました。
まあ、もっともらしいといえばもっともらしい説明かな〜ともやもやは3割くらい減りました。
でも、そういえば、出産時の子宮収縮や授乳時の乳汁の分泌を促す効果があるという、オキシトシンというホルモンは親子の絆を維持するだけでなく、男女が恋愛関係にあるときとかも盛んに分泌されているとかで、男女間あるいは人間関係一般の間での親密さを強めるホルモンとして注目されているらしいという記事をどこかで見たことがあるので、あながち外れてはないかも、と、もやもやは当初の半分くらい減りました。
さて、以下は「あとがき」にあった内容です。

たとえば、「文理融合」(文系の学問と理系の学問の学際的な融合)を謳う大学で、文系の研究者と理系の研究者がそれぞれ授業を行い、両方の講義を受けた学生に、「あなたの頭の中でそれらを融合させなさい」と言ったとしたら、それはあまりにも無責任である。両者の融合は、けっして容易なことではないのである。

もしかしたら先生の勤務校のことかしら、と思ってしまったりするのですが、lionusがかつて非常勤で行っていた某学部はまさに文理融合を謳っていて、そこに意気揚揚と入学してきた学生が”混乱”している(しながらそのまま卒業する)状況を目の当たりにしていたので、苦笑しました。
その学部は大学院もDまであるのですが、そこって果たしてどうなんだろう(進路状況は把握していませんが・・・)と思います。学部のとき、文理両方にまたがる授業を受けても、研究者になろうとしたら、専門はどこかに絞る必要があります。しかし、その某学部の大学院では、スタッフの専門が文理あれこれの分野に分散しているので、自分が専門と決めた分野で教えを請えるのは下手したら院内で指導教員一人だけという状況も起こり得るのではないでしょうか。頑張って外に出て活動したらいいのかもしれませんが、その分野自体の専攻=スタッフが複数いる他の院に比べて随分手薄いというか不利なんじゃないかなあ〜と。
さて、先生は続けて書かれています。

私は、それぞれの分野の研究を実際に行った人間が、一つの脳の中で、分析し思索し統合することが、両分野の融合には必要だと思っている。一人の脳の中でなければ、奥深い統合は難しいのである。

となると、学部レベルでは「文理融合」は難しい、ってことなんでしょうね。
また、もし、「それぞれの分野の研究を実際に行」うとしても、どちらかに取り込まれては駄目とも感じました。
1つ目の分野でアイデンティティを確立した上で、そのアイデンティティをコアに持ちながらもう1つの分野の研究を行い消化していくって感じなのかな・・・と。
最初に何者でもない者は、結局何者にもなれない?のかな。